日経新聞、「子供1人あたりの年間医療費は4割も伸びている」と医療費増大の原因を高齢化から逸らそうとする
日経新聞が「医療費の伸び、子どもが75歳以上の4倍に」とのタイトルの記事を掲載しています。
ただ、この記事は「高齢化が医療費増大の原因とは言い切れない」と主張するために意図的なデータの取捨が行われています。「割合」が強調されている時は「絶対値」を、「1人あたり」が強調されている時は「総額」を確認する重要性を認識させてくれる内容と言えるでしょう。
若い世代の医療費が伸びている。1人当たりの年間費用の変化を2000年度から16年間でみると、65歳以上の高齢者は10%増だった一方、65歳未満は24%増えた。特に子どもは4割も伸びており、地方自治体の助成によって受診回数が増えたとみられる。医療費の公的負担の膨張を抑えるには、高齢化以外の要因についての詳しい分析も必要だ。(新井惇太郎)
「1人あたりの年間費用」は子供(0〜14歳)が伸びていることは事実
日経新聞が用いたデータは厚労省の統計(国民医療費・平成28年度版の統計)です。その中の『表番号9』から対象項目を抜き出したのでしょう。
2000年 | 2016年 | |
---|---|---|
0〜14歳 | 11.24万円 | 15.98万円 (1.42倍) |
65歳以上 | 66.08万円 | 72.73万円 (1.10倍) |
日経新聞が主張するように、子供(0〜14歳)に費やされている “1人あたりの医療費の年間費用” は2000年から +40% を記録しています。
ただし、絶対値では子供1人に費やされている医療費の年間費用は約16万円です。これは『新生児医療』も含まれた数値であり、それほど目くじらを立てる必要はないでしょう。
なぜなら、65歳以上の人々に費やされている医療費の年間費用は約73万円だからです。この部分に触れていない時点で日経新聞の報道姿勢は「姑息」と言わざるを得ないのです。
「世代別の総額」では『65歳以上の伸び』の方が大きい
また、日経新聞が “1人あたりの医療費” に焦点を当てている理由は「世代別の医療費総額では65歳以上の伸びが大きい」という事実から目を背けさせたいからでしょう。
2000年 | 2016年 | |||
---|---|---|---|---|
0〜14歳 | 2兆806億 | 6.9% | 2兆5220億 (1.21倍) |
6.0% |
65歳以上 | 14兆5640億 | 48.3% | 25兆1584億 (1.73倍) |
59.7% |
65歳以上の人々に費やされている医療費は2000年度から 70% を超える “劇的な” 伸びを見せています。しかも、国民医療費に占める割合も 48.3% から 59.7% に変化し、10ポイント以上も増えているのです。
したがって、問題視すべきは「65歳以上に費やされる国民医療費が年間で10兆円も増加したこと」です。この事実から目を背けている時点で日経新聞の記事は論外と批判せざるを得ないでしょう。
新聞の定期購読読者層である「高齢者」を批判する記事を書けないだけ
日経新聞が「高齢化による医療費増大」から世間の目を背けさせようとする理由は「高齢者が新聞を定期購読するプレミアム層(= 上顧客)だから」です。
どの新聞社も部数減で経営に逆風が吹いています。その中で上顧客の機嫌を損ねるような記事を書くことができる新聞社は存在しないと言えるでしょう。なぜなら、高齢者に定期購読を止められると、さらに経営が苦しくなるからです。
そのため、「高齢者は悪くない。他にも原因があるはずだ」との内容の記事を書いているのでしょう。
インターネットを使って元データを確認できる人にとっては失笑物の記事ですし、そうした人々は新聞の信頼度をさらに低下させることになると言えるのではないでしょうか。