1回の投薬で3000万円超を要する白血病治療薬が医療保険の適用対象に加わると発表、保険適用の支払い上限を設けるべきだ
日経新聞によりますと、厚労省が白血病の治療薬『キムリア』の保険適用を決めたとのことです。
このニュースが注目されているのは「1回の投薬で3000万円超の費用がかかる」という点です。超高額薬ですが、患者個人の自己負担額は高額療養費制度によって上限が設けられています。
しかし、残りの分(= 薬価の大部分)は「税金や社会保険料」と「健康保険組合」が支払うことになるため、保険財政が破綻する大きな要因になり得るものなのです。現状を維持することは年々困難になっているのですから、改革をしなければならないと言えるでしょう。
1回の投薬で、3349万円もする白血病治療薬が公的な医療保険でカバーされるようになる。厚生労働省は15日、白血病など血液のがんで高い治療効果が見込まれる「キムリア」の保険適用を決めた。
厚労省が同日開いた中央社会保険医療協議会(中医協)で、キムリアの公定価格(薬価)を3349万円にする案を示し、承認された。22日から保険適用する。
(中略)
治療対象は白血病の患者で抗がん剤が効かなかった人などに限定する。対象は216人と見込まれている。市場規模は72億円だ。
「72億円の市場規模」に対する不満は少ないだろうが、「超高額薬の保険適用が認定され続けること」への懸念があるのは当然
『キムリア』の保険適応対象が「(既存の)抗がん剤が効かなかった白血病患者」となっていまるため、市場規模が72億円と見積もられています。保険全体から見れば、微々たる額です。そのため、この部分に対する不満は少ないと考えられます。
ただ、超高額薬に分類される中で保険適用の対象となっているのは『キムリア』だけではありません。
『オプジーボ』など他にも超高額薬は存在します。医療技術の進歩とともに『様々な高額薬』が誕生し続けることでしょう。
保険適用の対象であれば、保険に加入している患者の出費は抑えられます。「3割負担」が原則ですが、高額なものは「高額療養費制度」で上限があるため、患者の大きな負担にはなりません。
しかし、実際は患者が支払うはずの残り分は「税金や社会保険料」や「健康保険組合」が穴埋めしているのです。加入者の増加ペースよりも、高額薬の保険適用認定のペースの方が上回っていることになれば、保険財政が持たないのは火を見るよりも明らかでしょう。
この問題は早急に取り組まなければならない課題と言えるはずです。
「高額療養費制度」は必要な制度だが、全体総額に対する “ハードキャップ” を設けるなど対策は不可避だ
「高額療養費制度」は必要な制度です。なぜなら、患者個人で治療費を金銭的に賄うことが難しいから、健康保険制度があるのであり、高額療養費制度があるのです。
“2段構え” で患者が守られていますので、良い制度設計と言えるでしょう。
ですが、保険適用の対象となる医療費全体に上限がないのです。そのため、高額療養費の支給総額は「2兆5579億円(2016年度)」、2017年度の1ヶ月で月額の医療費が1000万円を超えた件数が532件で、この数字は5年前の2倍になったと日経新聞は報じています。
今後はさらに高齢化が進行するのですから、保険適用の対象となる医療費に上限(= ハードキャップ)を設けることは不可避と言わざるを得ません。
後期高齢者と生活保護受給者にも「3割負担」を求めることからは始めるべき
ゲノム研究が積極的に行われていますから、今後は「患者のゲノム情報を加味した個人専用の治療薬」が世に送り出される傾向が強まるでしょう。
「既製の医薬品よりも効果が期待できる」という点で新しいニーズが生まれるはずです。ただ、その一方で “特注品” ですから、大量生産によるコスト削減効果が見込めないという問題が起きることも予想されます。
したがって、保険制度を長く続けるためには “今の患者だけ” は助かる現行制度にメスを入れざるを得ないのです。
最終的には医療費の総額に対して「絶対に超えてはならない上限(= ハードキャップ)」が適用されるべきでしょう。しかし、その合意を形成するためには時間を要するのは目に見えています。
その一方で、同じ医療サービスを受けていながら「3割負担」を行っていない特権階級が存在するのです。後期高齢者や生活保護受給者は3割負担をしておらず、これは速やかに他の患者と同じ3割負担にしなければなりません。
医療制度改革は「待った無し」に近い状況にあります。保険対象の上限を設けることに政府が消極的である以上、保険料の支払いによって経済が疲弊し、落ち込みによる影響を無視できないレベルになってしまうと言わざるを得ないのではないでしょうか。