日露間での平和条約締結には “譲歩” が必須であり、野党が「対露・強硬論」を訴えるのは無責任である

 NHK によりますと、シンガポールを訪問中の安倍総理が15日に現地でロシア・プーチン大統領と首脳会談を行い、『日ソ共同宣言(1956年)』を基本に平和条約締結に向けた交渉を加速することで合意したとのことです。

 終戦から70年以上も経過し、21世紀を迎えた中で平和条約が締結されていないことは異様と言えるでしょう。ただ、長い年月が経過してしまったことで、事態打開が困難になっていることも事実です。

 「ロシアとの平和条約など不要」と公言している国政政党は存在しない訳ですから、「両国間でどのような “落としどころ” を見出すことができるのかがポイント」と言えるはずです。

 

 シンガポール訪問中の安倍総理大臣は、ロシアのプーチン大統領との日ロ首脳会談に臨んだあと記者団に対し、「平和条約を締結したあと歯舞群島と色丹島を引き渡す」とした、1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速することで合意したと明らかにしました。そして年明けにもロシアを訪問し、再び首脳会談を行う考えを示しました。

 安倍総理がロシアとの平和条約を締結できなければ、後任者が行うことはほぼ不可能と言えるでしょう。なぜなら、安倍首相は “例外的な” 長期政権を築くことに成功した稀有な政治家だからです。

 そのため、後任の首相は(安倍政権と比較すると)「短命」になると予想されます。ロシアとの平和条約交渉は既に長期戦となっていますので、双方が納得する解決策を見出すこと自体が極めて困難であることを知っておく必要があります。

 

交渉相手は “厄介なロシア”

 まず、念頭に置いておく必要があるのは交渉相手が「ロシア」という点です。ロシアは国連の常任理事国であり、『拒否権』を有している国です。

 つまり、メディアが取り上げる “国際社会” を味方に付けても、効果はほとんど得られないでしょう。

 ロシアはクリミア半島を武力を背景に併合しましたが、国際社会はロシアに制裁を加えることはできていません。なぜなら、『拒否権』を使うことで「ロシアに都合の悪い決定」をさせないことができるからです。

 そのため、国連の常任理事国ではない日本は「交渉」を通して、ロシアを懐柔することで、日露両国が納得できる着地点を見出すことが求められているのです。「そう簡単に妥結できるものではない」と言えるでしょう。

 

「北方四島の水産資源」は魅力的だが、道東の過疎化を考えると陸地は “不良債権” と化す可能性が大

 北方四島は日本固有の領土ですが、「返還されも管理に困る」という事態が生じる可能性があります。この点はシビアに評価する必要があるでしょう。

  • 北方四島の沿岸海域は豊かな漁場
  • 面積が予想以上に大きい上、インフラなどが極めて脆弱
    • 『国後島の面積』≒『沖縄本島の面積』
    • 『択捉島の面積』は沖縄本島の約3倍
  • 北海道東部は過疎化が進行する中、「北方四島の維持費」は誰が捻出するのか

 日本側が北方四島の返還と同時に得られるメリットは「沿岸海域の海洋資源」でしょう。これは「日本の漁船が操業できなかった」という要因も考えられるだけに、手放しで喜べる項目とは言えません。

 それよりも、問題なのは「沖縄本島の4倍に相当するインフラ環境の整っていない陸地をどうするのか」という部分です。北海道の東部が人口減少に悩んでいる状況で、北方四島に投資をするメリットが見出される可能性は低いでしょう。

 『返還後の事業計画』をいくつか準備しておく必要があるはずですし、これは政府与党だけでなく、野党からもアイデアが出されているべきものと言えるでしょう。

 

「韓国の意向を尊重せよ」と主張する野党が「ロシアには譲歩するな」と要求することは明らかに矛盾

 ロシアとの平和条約締結交渉で野党は「四島一括返還が絶対条件」と強硬論を主張しています。ただ、この姿勢は「矛盾」と言わざるを得ないでしょう。

 なぜなら、野党は日本固有の領土である竹島を不法占拠している韓国に対しては「譲歩」を要求しているからです。韓国もロシアも日本固有の領土を武力を背景に不法占拠し続けているのです。対露政策で「強硬論」を訴えるなら、対韓政策でも「強硬論」を基本にしなければなりません。

 「外国による武力を背景にした不法占拠」を黙認することが『自国の国益』になるなら、現状維持を選択すべきでしょう。そうした主張を野党は公言していないのですから、「安倍政権の方針に “逆張り” しているだけ」と有権者に看破されてしまうのです。

 野党が『平和』を重要視しているなら、周辺国の1つであるロシアと平和条約が締結されていないことを問題視しなければなりません。しかし、野党は締結に向けた交渉相手であるロシアを挑発する内容を突きつけることを要求しているのですから、政権の邪魔をしたいだけと考えられます。

 

 野党は「審議拒否をすれば相手(=与党)は譲歩するのだから、外交交渉も同様にすべき」と考えているのでしょう。ですが、実効支配をする側にとっては「既成事実を積み上げることができる」ため、困ることは何もないのです。

 相手側に自分たちの要求内容を反映することができない交渉力しか持ち合わせていない野党の手法を参考にしたところで得られるリターンは何もないと言えるのではないでしょうか。