ベネズエラ、『反米のマドゥロ大統領』と『反政府のグアイド暫定大統領』の両陣営が国際社会に支持を訴える

 南米のベネズエラで “分断” が鮮明になっています。社会主義国家で反米のマドゥロ大統領が政権を担っていたのですが、経済の落ち込みから混乱が発生。グイアド国会議長が暫定大統領への就任を宣言したことで混乱に拍車がかかっています。

 NHK によりますと、ベネズエラ双方の陣営がアメリカで国際社会に支持を訴えたとのことです。「米 vs 中露」の代理戦争となる様相を呈しており、状況は把握しておく必要があると言えるでしょう。

 

 ベネズエラで、暫定大統領への就任を宣言したグアイド国会議長を欧米が支持する一方、対立するマドゥーロ大統領を中国やロシアが支持して混乱が広がっています。こうした中、グアイド国会議長率いる反政府側は、アメリカの首都ワシントンで、各国の政府関係者を招いて会議を開きました。

 (中略)

 今回の会議に参加した日本の相川一俊駐米特命全権公使は、NHKの取材に対して「ベネズエラの人道的状況を懸念している。国民の声が反映された国造りを支援していきたい」と述べ、日本としても支えていく姿勢を示しました。

 社会主義を掲げるマドゥロ大統領を支持しているのは中国やロシアといった政治的価値観の近い国々です。

 一方、アメリカなど自由主義を掲げる西側諸国はグイアド暫定大統領(ベネズエラの反政府側)を支持する傾向にあります。そのため、日本も反政府側を支援する姿勢を示したと言えるでしょう。

 

チャベス前大統領政権下による『反米・社会主義国家』の “負の遺産” が重すぎて耐え切れなくなった

 ベネズエラが問題を抱えた “発端” はチャベス前大統領の政権運営です。ウゴ・チャベス前大統領は1999年に就任すると『反米・社会主義路線』の政策を敢行しました。

画像:原油価格とベネズエラのGDP

 農地を接収し、石油や公共インフラ(電気・ガス・水道)を国営化して社会主義国家となります。反発も発生したのですが、原油価格の上昇によってベネズエラの GDP も上昇。貧困層の支持を得ためのバラマキ政策を続けました。

 この国家運営が成立していた理由は「ベネズエラが産油国」だからです。石油資源は国営企業を通して輸出されるのですから、貧困層を “買収” するための予算は国外から調達していました。

 つまり、原油高が「ベネズエラのデタラメな政権運営」を覆い隠す役割を果たしていたのです。

 しかし、原油価格が下落すると、国家予算を確保することが困難になり、経済情勢が行き詰まってしまいます。ベネズエラで起きているのはこれが原因と言えるでしょう。

 

チャベス前大統領のガン治療を機にベネズエラのキューバ化が一気に進行する

 チャベス前大統領政権時には何とか持ちこたえていた経済が凋落に転じたのは2011年に前大統領がガンを患い、キューバに治療に向かったことが発端です。これにより、キューバとの関係が近くなり、後任のマドゥロ大統領(当時は副大統領)がキューバの政策を本格的に導入したからです。

 社会主義国家は「まじめに働く者がバカを見る制度」ですから、どの国が導入しても失敗します。

 成果に関係なく報酬が支払われるため、有能な人材は国外に逃げ出します。また、国内では “報酬額の決定権” などが利権と化すため、政治腐敗が進行することになるのです。

 つまり、マドゥロ大統領が就任してからのベネズエラ経済は社会主義の色合いを強めたことで疲弊状態にありました。そこに、日本の原発再稼働や OPEC の石油増産という形で原油価格が下落し、ベネズエラの石油を使った影響力が失われる結果となりました。

 経済を牽引するエンジンに該当する産業が完全に止まってしまっているのですから、身動きが取れなくなるのは当然と言わざるを得ないでしょう。

 

事態を収束させられる “強力なリーダー” となる存在が見当たらないことが問題

 ベネズエラの混乱は続くことになるでしょう。なぜなら、事態を収束することができるだけの強力なリーダーが見当たらない状況だからです。

  • マドゥロ大統領:
    • +:正規政府の系譜にあり、中露の後押しを受ける
    • +:貧困層をコントロールするノウハウを有する
    • ー:社会主義政策で経済を低迷させた元凶
    • ー:反米政権であり、国際的な支援を得ることは困難
  • グアイド暫定大統領:
    • +:アメリカ等の支持を得やすい民主主義路線
    • ー:政権側が持つ既得権益にどれだけ対抗できるかが未知数

 経済破綻した状況から立て直すことが求められているのですが、石油という外貨獲得資源があるベネズエラでは絶妙の舵取りが要求されます。資源が乏しい国では「みんなで将来に向けて頑張ろう」とのトップの呼びかけに反発が起きる可能性は少ないと言えるでしょう。

 しかし、産油国では「石油を売った金で社会保障を手厚くしろ」と貧困層から文句が出ることは目に見えています。したがって、ノルウェーのような運営ノウハウを持ち込むことが必要になるのですが、その政策を軌道に乗せることができなければ話にならないのです。

 マドゥロ大統領は政治的な立ち位置から、北欧型の国家運営を行うことは不可能です。グアイド暫定大統領には可能性がありますが、既得権益を持つ政権側の人間への対処能力が未知数であり、混乱が収束する目処は立っていません。

 また、軍部の立ち位置も重要な要素です。マドゥロ大統領派が多数派を占めるようだと、反政府側の活動が制圧される要因となるからです。

 

 ベネズエラは日本から見て地球の裏側に位置します。また、経済的な関係性も低いため、ニュース価値も低いと言えるでしょう。ただ、その国を舞台にアメリカと中国・ロシアが綱引きをしている現実は頭の片隅に置いておく価値はあると言えるのではないでしょうか。