「アディダスの3本線」に対する商標権が制限される、NHK の「商標権無効」は誤解を招く報道

 日経新聞によりますと、ドイツのスポーツブランドであるアディダス社が使用している「3本線のデザインの商標権を制限する」との判決が EU の裁判所から下されたとのことです。

 NHK が「商標権無効」と報じたことで「アディダスが3本線を使えなくなった」との考えてしまいがちですが、これは誤解です。「3本線の定義」を確認する必要があると言えるでしょう。

 

 独アディダスが靴や衣料品に使用している「3本線」について、欧州連合(EU)の高裁にあたる一般裁判所(ルクセンブルク)は19日、商標権を制限する判断を下した。

 (中略)

 2014年にEU知的財産庁(EUIPO)がアディダスが申請した「どんな向きにも付けられる同じ幅の3本の平行な線」を商標として登録。しかし、16年にベルギーの会社が異議を申し立て、EUIPOは商標権を取り消した。アディダスはこれを不服として訴えていた。

 

“どんな向きにも付けられる同じ幅の3本の平行な線” の定義は広い

 今回、EU の裁判所で商標権が制限されたのは「(アディダスが申請した)どんな向きにも付けられる同じ幅の3本の平行な線」です。これは定義の範囲が広すぎると言わざるを得ません。

 例えば、以下の “3本線” は「アディダスの商標権を侵害している」と認定されることになります。




 同じ幅の3本の平行線で区切っただけですが、2014年にアディダスが申請した内容に抵触します。ただ、このデザインは露骨すぎるため、裁判になると敗けることでしょう。

 しかし、「太さが同じ3本の平行線はアディダスの商標」とすると、モンスターエナジーのような「M」や「山」という縦線を強調する3本線が使えなくなってしまいます。(アディダスが申請した商標では3本線の1本が長くても短くても抵触するため)

 したがって、異議が認められたのだと考えられます。

 

NHK が報じた記事の内容は何が問題なのか

 このニュースは NHK でも次のように取り上げられました。

画像:アディダスの商標権が棄却されたことを伝えるNHK

 ドイツの大手スポーツ用品メーカー「アディダス」が製品に使っている3本の平行線について、EU=ヨーロッパ連合の裁判所は19日、独自性に欠けるとして商標権を無効とする判断を示しました。

 (中略)

 裁判所は、「アディダス」は3本の平行線がEU全域で他社の製品から見分けられるだけの独自性を持つと証明できていない、とも指摘しています。

 NHK が報じた記事で不足しているのは「3本線の中身」でしょう。“アディダス社がブランドロゴとして利用している3本線” の商標が否定されたのではなく、“どんな向きにも付けられる同じ幅の3本の平行な線” の商標が「独自性がない」との理由で無効とされたのです。

 したがって、ブランドロゴに利用されている “特定の向き” で “同じ幅” を持ち “任意の長さ” で描かれた “3本線” は商標として保護されているはずだからです。NHK の記事は誤解を招く内容と言えるものでしょう。

 

 商標は企業にとって重要なものですが、“拡大解釈” をしてしまうとネガティブなイメージを残すことになります。「どんな向きにも付けられる同じ幅の平行な3本線」は範囲が広すぎであり、もう少し条件を設けるべきだったと言えるのではないでしょうか。