質問主意書で「地方自治体は国の顔色を気にせず住民に『HPVワクチン』を推奨できる」との言質を取った井出庸生議員の働きは評価されるべき

 提出数を評価する団体が存在するため、中身のない質問が乱発される質問主意書ですが、有意義な主意書も存在します。2019年末にかけて開かれていた第200回国会で提出された有意義な質問主意書の1つが井出庸生議員が提出したものでしょう。

 「『HPVワクチン』の定期接種の対応」についての質問主意書を提出し、政府から「地方自治体は国の方針を気にすることなく住民に推奨できる」との答弁書を引き出したからです。メディアなどが騒いだ問題の “後始末” を行う政治家の働きは評価されるべきと言えるでしょう。

 

『子宮頸がんの HPV ワクチン問題』で騒いだメディアが放置し続けていることが根本的な原因

 『HPVワクチン』は「ヒトパピローマウイルス感染症の定期接種」の際に用いられています。

 2013年4月から定期接種の対象となったのですが、「接種後に様々な症状が出た」とメディアが大騒ぎし、厚労省が「積極的勧奨を控える」との『勧告』を出したままの状態です。

 現状は騒いだ側が「騒いだ事実」を “なかったこと” と同然の扱いをしています。要するに、「危険だ」と騒ぐだけ騒いだものの、それが「デマ」と判明したために責任を取らずに逃げたままなのです。

 不安を煽った報道機関が弊害を放置しているのですから、その是正に乗り出した井出庸生議員の働きは与野党に関係なく評価されるべきだと言えるでしょう。

 

井出庸生議員が提出した質問主意書と政府答弁の概要

 井出議員が提出した質問主意書と政府からの答弁の概要は以下のものです。

  • 予防接種法に基づき市町村長が行う予防接種は自治事務
  • 具体的な運用は市町村長に一定の裁量があり、当該市町村長は法の趣旨を踏まえ勧奨を実施する必要がある
  • 『勧告』に従うべき法律上の義務を負うものではないが、『勧告』を尊重すべき義務を負う
  • 国の職員は「『勧告』に従わなかったこと」を理由に地方自治体に不利益な取扱いをしてはならない

 井出議員は「地方自治体の首長が『予防接種法』を根拠に『HPVワクチン』の接種を推奨した場合、『厚労省の勧告』との兼ね合いはどうなっているのか」と質問したのです。

 それに対する政府の答弁は「国の顔色を伺う必要はなし」というものでした。

 つまり、「地方自治体が他の予防接種と同様に『HPVワクチン』の接種を推奨して問題ない」との “お墨付き” を政府から引き出したのです。また、厚労省からの妨害や報復の懸念に対しては先手を打つ質問項目を含めていることから、井出議員の提出した主意書には大きな価値があると言えるでしょう。

 

自民党入りを決めた井出庸生議員には「(自民党の)内部から動かすこと」で国民に還元する働きを期待したい

 必要な予防接種を妨げる要素を取り除くという実績を残した井出議員ですが、12月18日に自民党に入党届を提出しました。自民党は迎え入れる意向を示しているため、今後は自民党を内部から動かすことが期待されることになるでしょう。

 具体的には『表現の自由』を守るために活動する山田太郎参院議員と同様の働きが期待されます。

 井出議員は『HPV ワクチン』の件で政府答弁を引き出したのですから、自民党に入党した理由の1つは「国会の最大勢力である自民党議員の賛同を得て、厚労省の『勧告』を撤回させる」になるでしょう。

 「厚労省が『勧告』を “自主的に” 撤回すること」には抵抗が生じますが、「自民党・厚労部からの撤回の要請」が理由であれば、撤回への抵抗は少なくなるでしょう。「厚労省の提案法案に対する理解を得るため」など省内向けの理論は何とでも作ることができるからです。

 

 ただ、山田議員の時と同様に野党や無所属で活動していた “真っ当な議員” が自民党に入党する流れができていることはあまり歓迎できることではありません。

 なぜなら、野党の政策議論能力が相対的に低下することになるからです。「古い価値観のままで固まった自民党」に「科学的な根拠に基づく改善案を訴える野党の若手議員」という構図ができれば、ここまで自民党1強にはならないでしょう。

 しかし、現状は「感情論に基づく正義を振りかざす野党」から良識派の議員が離脱し、“様々な立場の議員が属する自民党” に流れているのです。この現状を野党の執行部が最も重く受け止め、方針転換をする必要があると言えるのではないしょうか。