フィアットとプジョーの経営統合が正式合意、当局の承認を待つ必要はあるものの追い上げ体制が整う
日経新聞によりますと、フィアットなどを傘下に保有する FCA とプジョーなどを持つ PSA が経営統合することで正式合意し、拘束力のある覚書を締結したとのことです。
当局からの承認を得る必要はありますが、差し止められる可能性は低いと考えられます。合併による再編を行う必要はあるものの、ルノー・日産・三菱連合を追い抜くチャンスが生まれつつあると言えるでしょう。
欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と「プジョー」を傘下に持つ仏グループPSAは18日、経営統合することで正式に合意した。拘束力のある覚書を結んだ。当局の承認が得られれば、2021年に出資比率が50対50の統合新会社を設立する。世界販売台数は約870万台となり、世界4位の自動車メーカーが生まれる。
統合会社の社名は未定。統合完了までに12~15カ月を見込んでいる。本社はオランダに置き、会長にFCAのジョン・エルカン会長、最高経営責任者(CEO)にPSAのカルロス・タバレスCEOがそれぞれ就く。
「経営層の足並みが乱れる要素が少ないこと」が今回の経営統合の強み
イタリアのフィアットとアメリカのクライスラーにルーツを持つフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)は以前にルノーとの経営統合を模索していました。しかし、この時はフランス政府からの “横槍” が入り、交渉は頓挫しています。
欧州勢は「ディーゼル主体のガソリン車」がメインだったものの、排ガス不正問題で世間から白い目で見られている状況に『脱石炭運動』が加わったことで経営環境がより厳しくなっている状況です。
そのため、FCA と PSA の経営統合が一気に具体化することになったのでしょう。両社ともに創業家が主要株主に名を連ね、会社経営は能力のある実務家に任せるという方向性で一致しています。
“毛色の似た企業” が次世代開発を含む合理化を求めて経営統合を行うのですから、合併で足並みが乱れて収益が悪化するという事態が回避できる可能性が高いことは大きなメリットになると言えるでしょう。
傘下の車両ブランドを整理し、経営の効率化を図ることが求められる
一方でネックとなるのは「傘下に抱えることになるブランドが多すぎる(≒ 対象顧客が重複するブランドが出る)こと」です。
これは新会社の内部で “潰し合い” が起きてしまうと経営の効率化とは逆の効果が出てしまうからです。そのため、「残すブランド」と「廃止するブランド」をどう仕分けるかが経営陣の腕の見せ所となるでしょう。
残すブランドの候補は「収益性の見込める高級ブランド」や「知名度の高いブランド」が基本になります。これらのブランドは「車を運転するドライバーに訴えかける魅力があること」が条件と言えるでしょう。
一方で大衆車と言われる「量産モデルのブランド」は人気車種を除いて廃止に向かわざるを得ません。今後の流れは「自動運転」ですから、乗り心地や燃費といった運転以外の要素に強みのある車種を残す方向へと向かうでしょう。
したがって、自動運転などの “新しい機能” を搭載した際に既存のイメージが崩れないブランドが大衆車モデルとして生き残る可能性が高いと考えられます。
経営トップの歩調が合っているとは言い難い『ルノー・日産連合』には厳しさが増しつつある局面
FCA と PSA の経営統合が承認されたとしても、日本の国内市場に与える影響はほぼ皆無と言えるでしょう。日本国内では輸入車の存在感はそれほど大きくないからです。
ただ、世界市場全体で見ますと少なからず影響は出るはずです。
「集約による効率化」を理由に欧州市場で採算性を高め、その資金を次世代技術の研究開発費やアジアなどの新興国市場での販促費に投じることが予想されるからです。攻勢を強める企業体が現れるのですから、対策を採らなければシェアを落とすことにもなり得るでしょう。
『ルノー・日産連合』は経営陣の歯車が噛み合っているとは言えず、互いに不信感を募らせる悪循環に陥っています。フランス政府の横槍に加えて経営環境も芳しくないのですから、“転落” も起こり得る状況と言えます。
日本の自動車メーカーが大慌てする必要性が現時点ではないことは明らかですが、内燃機関が電気へと変わろうとする転換期を前に企業の統治体系を見直すことができる環境を作り出しておく価値はあるはずです。時代の変化に対応できる体力を持ち合わせているかが分かれ目になると言えるのではないでしょうか。