フランス政府が当事者として「ルノーと日産の統合」を要求するなら、日本政府は「日産の後ろ盾」として睨みを効かせる必要がある

 日経新聞によりますと、フランス政府が「ルノーと日産の経営統合」を日本政府に伝えたとのことです。

 民間企業のことに政府が介入しようとする姿勢は日本では嫌われるでしょう。日本政府は目立った行動を起こさないと予想されますが、外国政府が当事者となる形で日本の民間企業に圧力をかけようとするのであれば、“後ろ盾” として睨みを効かせるべきです。

 民間企業同士の『公平な交渉』が行われない恐れがある事案に対しては懸念を表明し、企業を守るべきだと言えるからです。

 

 フランス政府が共同持ち株会社方式を軸に、仏ルノーと日産自動車を経営統合させたい意向を日本政府関係者に伝えた。ルノー筆頭株主の仏政府はこれまでも再三、経営統合を求めており、日仏連合の要だったカルロス・ゴーン被告の逮捕後も主張を変えない姿勢が鮮明になった。仏政府とルノーは持ち株会社方式による統合で影響力の拡大を狙う。

 フランス政府は「自国の雇用情勢のためにルノーと日産の経営統合をしたい」という強い動機があります。

 ルノー・日産・三菱のアライアンスをルノーが主導すれば、ルノーを支配するフランス政府の意向が反映された経営が可能になるからです。その結果、日産や三菱の利益をフランス国内での雇用維持に転用することができるようになるのです。

 そうした思惑が見え見えなのですから、「民間のことは民間で」という姿勢はマイナス面が大きいと言えるでしょう。

 

“フランス政府が株式を手放したルノー” が「日産への経営統合」を提案するのであれば問題はない

 フランス政府が表明した意向で不利益を被るのは日産の株主や従業員です。『共同持株会社』を設立されると、現在の日産株主が保有する株式が取り上げられ、ルノーを含めた『共同持株会社』の株を強制的に割り当てられることになるからです。

 しかも、それを「フランス政府主導」でやろうとしているのです。

 ルノーは日産の株式を 50.1% や 66.7% と上限付きで TOB をすることは可能です。上限付きの TOB 実施後に『共同持株会社』を設立されると、TOB で漏れた現役の日産株主が不利益を被ることになるのです。

 仮に、ルノーが TOB を実施するなら、「日産の 100% 子会社化」を目標としたものであるべきです。また、その前提条件は「フランス政府がルノー株を手放していること」です。

 経営的に「プレミアム価格を払ってでも日産を買収する価値がある」とルノーが判断すれば、市場や株主が TOB に応じるかを個々に判断を下せば良いことです。しかし、現状はフランス政府が “政治的な思惑” を持って、ルノーに日産との統合を要求しているのですから、「問題あり」と言わざるを得ないでしょう。

 

フランス政府が当事者として介入する以上、日本政府も当事者として介入する必要がある

 フランス政府は「ルノーの筆頭株主」を理由に当事者として、民間企業であるルノーと日産のアライアンス問題に介入しています。そのため、日本政府は「民間のことは民間で」という姿勢は採るべきではないでしょう。

 なぜなら、日産はルノーとの経営統合を嫌っているからです。

 日産の経営陣や株主が「ルノー主導での経営統合」を望んでいるなら、日本政府が当事者として介入に乗り出す意義は見当たりません。この場合は政治家の “スタンドプレー” であり、民間企業の活動を阻害していることと同じだからです。

 しかし、実際には “アライアンスのお荷物” となっているルノーを延命させる目的でフランス政府が「ルノー主導の経営統合」を熱望しているのです。日本政府は “日産の後ろ盾” を務めるための理由をこじつける必要がありますし、当事者になる覚悟を持たなければなりません。

 『共同持株会社』が設立されると、日産の売上はそちらに計上されることになるでしょう。税率の低い国に『共同持株会社』の本社が置かれるはずですから、日本の税収が減少する恐れがあることを認識した上で対応が求められているのです。

 

ルノーと日産の関係が「現状維持」なら、誰が後任者になろうとカルロス・ゴーンと同じことができる

 ルノー側は「日産や三菱とのアライアンス関係を維持または深化」を望むでしょう。理由はゴーン会長の行為による損害はゼロだからです。

 ゴーン会長が私物化していたのは日産やルノーといった日系企業であり、フランス側には何の痛みもないのです。そんため、アライアンスは「現状維持(= ルノー側が主導)」または「関係の深化」が望ましいとの意向をフランス政府の代弁者として述べているのです。

 一方、日産やルノー側からすれば、この提案内容は論外です。

 なぜなら、トップが “お友達人事” を始め、「企業を私物化することが可能である」と明るみに出たからです。アライアンスの関係を見直すことは不可避ですし、統治体系の是正も必須です。そうしなければ、同じ問題が起きる恐れが残る訳ですから、フランス政府の提案に不快感を示しているのです。

 フランス政府はルノーよりも前面に出る形で日産との経営統合を要求しているのですから、日本政府は日産の “後ろ盾” となる必要があると言えるのではないでしょうか。