ルノーが「全役員の報酬に不正はない」と発表するも、朝日新聞やロイターに「統括会社経由で秘密報酬あり」と報じられる

 日産自動車に対する特別背任などで逮捕されているカルロス・ゴーン氏が現在も会長兼 CEO を務めるルノーが「ゴーン会長を含む全役員の報酬に不正はなかった」と発表したと NHK が報じています。

 ただ、ルノーがそのように発表しましたが、「統括会社からの秘密報酬が出ている」と朝日新聞ロイター通信に報じられています。そのため、ルノー側の立場は依然として厳しいままだと言わざるを得ないでしょう。

 

 フランスの自動車メーカー、ルノーは10日、経営トップの座にとどめているカルロス・ゴーン会長兼CEOを含めた、すべての役員を対象に報酬を調べたところ、これまでに不正は見つかっていないと発表しました。

 (中略)

 日産自動車から会長職を解任されたゴーン会長兼CEOを含めた役員全員を対象に2017年と2018年の報酬を調べたところ、いずれも不正は見つからなかったとしています。そのうえで、引き続き内部調査を続けるとしています。

 ルノーの内部で「不正の証拠」を探したところで何も出てこないでしょう。なぜなら、ルノーのトップを指名する権限を持つフランス政府に自らの “弱み” を提供する結果になるからです。

 また、ルノーから高給を得ることが「(フランス国内からの)バッシング要因」となるのですから、そのような愚行に手を染める可能性は極めて低い状況です。そのため、バッシングを受けにくい日産を “喰い物” にしていたと言えるでしょう。

 

“ガバナンス担当の役員” に秘密報酬が支払われていたことが発覚

 朝日新聞やロイター通信が報じた内容は以下のものです。

 統括会社内に設けられた「ガバナンス(企業統治)・人事・報酬委員会」の委員でもあるセペリ氏に対し、委員の報酬として年10万ユーロが支払われており、統括会社のトップを務めるゴーン容疑者が支給を承認していた。

 (中略)

 同委員会はゴーン容疑者、ケリー被告とセペリ氏の3人のみで構成され、セペリ氏だけが委員報酬を受け取っていたとみられる。

 ルノーで副社長を務めるムナ・セペリ氏に対し、統括会社から委員報酬名目の支払いがあったのです。もちろん、業務に対する正当な対価を受け取る権利はあります。

 しかし、セペリ氏の場合は「非公表の報酬」であることに加え、「ガバナンスを担当する役員」です。企業統治を担当する立場の役員が “裏金” を受け取っていた時点でコンプライアンス違反として処分の対象になるべき事案だと言わざるを得ないでしょう。

 

役員会が知らない所で、統括会社から報酬を受けていたルノーの役員

 ムナ・セペリ氏が受け取っていた報酬は「口止め料」と見なされても仕方のないことです。なぜなら、『統括会社(= ルノー・日産BV)』と『ルノー』の利害は必ずしも一致しないからです。

 『統括会社(= ルノー・日産BV)』の目的は「ルノー・日産・三菱自のアライアンスによる利益が最大化させること」です。一方、『ルノー』の目的は「ルノーの利益が最大化させること」です。そのため、両社の利益が対立するケースが発生する可能性があります。

  1. 「ルノー:3、日産:6、三菱自:1」が『統括会社』の利益最大化
  2. 「ルノー:4.5、日産:5、三菱自:0.5」が『ルノー』の利益最大化

 『統括会社』から報酬を得ていれば、『ルノー』ではなく『統括会社』のために働く可能性がある人物と言えるでしょう。

 その恐れがある人物を役員として留めるかはルノーの役員会が判断することです。ただ、報酬を得ていることを秘密にしていたのであれば、会社への背任行為に近いため、コンプライアンス上の大きな問題となります。

 「ゴーン氏の署名もあった」とのですから、うやむやで済ませようとするルノー側の目論見は大きく外れることになったと言えるでしょう。

 

 ルノー・日産・三菱自によるアライアンスは「ルノーが日系の自動車会社を私物化するもの」というフランス側の思惑があります。そのため、ルノー内部での違法行為がなければ、今回の件は「不問」としたいのでしょう。

 しかし、利益を搾取される側の日産・三菱自にとっては「不問」になどできるはずのない問題です。

 アライアンスの力関係が「ルノーを儲けさせる」から「各社が利益最大化を図る」という対等なものに変わるまで、混乱劇は続くことになると言えるのではないでしょうか。