韓国・テグ(大邱)での新型コロナ感染者数の発見ペースが鈍化した要因は「PCR 検査を徹底したから」ではなく「封鎖から2週間が経過したから」

 新型コロナウイルス(covid-19)が世界中で猛威を振るっていますが、一部で「積極的な『PCR 検査』を実施した韓国の方針」を称賛する人々が存在します。

 しかし、この方針を参考にすると自国の医療制度は崩壊してしまうでしょう。なぜなら、韓国の方針を絶賛する主張は「韓国がテグ(大邱)などを徹底封鎖した」など対応の時系列を無視したものだからです。

 

韓国(・テグ)での感染確認者と死亡者の推移

 韓国 CDC が発表している新型コロナウイルスの感染確認者と死亡者の推移は以下のとおりです。

画像:韓国における新型コロナの感染者と死者

 韓国では3月の第2週(9日)から新規感染確認者の発見ペースが鈍化しています。これはテグ(大邱)や慶尚北道での新規感染者が減少したことが理由です。

 ただし、その理由は「『PCR 検査』を積極的に行ったから」ではありません。

 もし「積極的な検査」で封じ込めができるなら、“最大限の封鎖措置が採られていないテグ(大邱)や慶尚北道以外の地域” での新規感染者数も同様に減少しているはずだからです。つまり、『積極的な PCR 検査』は封じ込めに直接的な効果を発揮しないことを証明しているのです。

 

韓国が実証することになった “残酷な現実”

 韓国(のテグ)では宗教団体が「クラスター」となったことで感染が2月下旬に急拡大してしまいました。この事態を受けたムン・ジェイン大統領は2月25日にテグ(大邱)と慶尚北道を「感染症の『特別管理地域』に指定」し、通常の遮断措置を超える “最大限の封鎖措置” を実施すると決定しました。

 封鎖措置は「新規感染者の発生を抑制すること」には大きな効果を発揮しますが、“既に感染していて潜伏期間の人” には効果がないことに留意する必要があります。

 韓国の対応で決定的に不味かったのは「MERS と同じ対応を新型コロナ(covid-19)にもしてしまったこと」でしょう。なぜなら、陽性反応者は “症状の重さに関係なく” 感染症病棟に入院させたことで病床が埋まったことでテグ(大邱)では医療崩壊が発生したからです。

 そのため、3月1日には韓国・中対本(中央災難安全対策本部)が方針を転換。「感染者を4段階(軽症・中等度・重症・最重症)に分類し、軽症患者は生活治療センターに入所させる一方、中等度以上の患者は隔離入院して治療を受けられるようにする」としました。

 ただ、患者の絶対数が多いと重症者が回復する前に “新規の重症患者” が発生することになり、病床が埋まった状態が解消されないテグ(大邱)では患者は亡くなり続けることになります。

 テグ(大邱)での新規感染者の発生ペースが鈍化したのは「2月25日から続く封鎖措置で接触する機会が激減したから」であり、死者が発生するペースがそれほど下がっていないのは「医療崩壊が以前として続いているから」だと言えるでしょう。

 

『追跡・検査・治療』の “韓国式” で封じ込められるなら、ソウル首都圏での患者数増加の説明が付かない

 もし、一部の界隈が称賛する “韓国式の封じ込め策” に効果があるなら、ソウル首都圏での新型コロナの新規感染者に歯止めをかけられていない現状が発生することもないでしょう。

表: 韓国・ソウル首都圏での新型コロナウイルスの感染者数
  ソウル広域市 京畿道
感染 患者 死者 感染 患者 死者
3月6日(金) 105 80 0 120 105 1
10日(火) 141 110 0 163 140 1
13日(金) 225 185 0 185 152 2
17日(火) 265 210 0 262 204 3

 まず、韓国は3月1日の時点で “日本などの方式” に転換済みです。「重症者への医療提供」を最優先に変更しており、『積極的な PCR 検査』は二の次になっています。

 “韓国のアプローチ” が「正しい」のであれば、テグ(大邱)での医療崩壊は発生しなかったことでしょう。

 「生活治療センターを開設したことでテグは医療崩壊を免れた」という主張も噴飯物です。テグ(大邱)で「新型コロナによる死者の発生ペース」が新規感染者の発生が止まりつつある状況下でも大きく鈍化していないことが何よりの証拠だからです。

 『追跡・検査・治療』だけでは「新たな発生源(= クラスター)」を潰すことはできません。『救命』の手段であるはずの『検査』が目的化してしまった界隈の意見に流されると人命で大きなツケを払うことになる自覚は持っておく必要があると言えるでしょう。

 

韓国での新型コロナウイルスによる致死率が低いカラクリ

 最後に、新型コロナウイルスへの韓国政府の対応を讃える人々が拠り所にしている「感染者の死亡率の低さ」についての “からくり” にも言及しておくことにしましょう。

画像:韓国の人口ピラミッドと新型コロナの感染者および死者

 結論を言うと、「20代の感染確認者の数が “異様なほどに” 多いから」です。

 上記のグラフから、20代の感染確認者は10代と30代の中間値である「10% 弱の割合」であるはずです。しかし、実際には「30% 弱」と3倍近い数値を記録しました。これが死亡率を大きく引き下げている要因なのです。

 なぜ、このようなイレギュラーな事態が発生したかと言いますと、テグ(大邱)で集団感染を引き起こした宗教団体『新天地』の信者は大学生が多いからです。

 韓国政府は「新天地の信者全員」を対象に『PCR 検査』を実施したため、信者が多い20代での陽性反応数は増加します。しかし、免疫力の高い若者は新型コロナが重症化するケースは稀ですから、母数が増えるだけで全体の死亡率は押し下げます。

 ただし、結果的に(軽症である)彼らがテグの病床を先に埋めてしまったことで重症患者の入院先がなくなり、医療崩壊を招く要因になってしまったのです。「検査を重点的にすれば何とかなる」という幻想は捨て去るべきではないでしょうか。