バルセロナに足りなかったのは “空中戦の脅威に対抗する戦術”

 UEFA チャンピオンズリーグ準々決勝でバルセロナがユヴェントスに 3-0 で敗れ、苦しい状況に追い込まれました。

 決勝トーナメントの1回戦で “奇跡の大逆転勝利” を起こしたチームであり、逆転する可能性はないとは言えません。しかし、奇跡は度々起きるのものではないため、厳しい状況であることに変わりありません。

 バルセロナが持つチーム戦略は不変であるだけに、ユヴェントス戦で採用した戦術を見直すことが不可欠だと言えるでしょう。

 

違いがあるようで、特徴の似たチーム

 バルセロナは “華麗なパスワーク” を軸にした攻撃に重きを置いたチームで、ユヴェントスは “泥臭く戦う” 守備の固さが特徴的なチームと言えるでしょう。違いはありますが、似通った部分もあります。

  • テクニック志向のチームである
  • 可能な限りの攻撃的な選手を先発で起用している
  • 質の高いボールを蹴れる左右のキッカーがいる

 

 ユヴェントスはハードワークが注目されるですが、この数年で “テクニック志向” の色合いも強くなっています。2016年の夏に補強したイグアイン、ピアニッチ、ダニ・アウベスらがその根拠と言えるでしょう。

 そして、先発メンバー以上に攻撃に比重を置くことはできない状況でした。バルセロナが MSN 以上の攻撃力を期待する布陣は非現実的ですし、ユヴェントスはピアツァが大怪我で戦列を離れたことで攻撃的な選手がベンチにいなかったからです。

 つまり、「先発メンバーで得点できなければ、ゴールレスで試合を終える可能性が高くなる」ことが現実にあったと言えるのです。

 

セットプレーで “プレス” をかけることはできない

 「前線からのプレスでボールを奪って…」という表現がありますが、セットプレーでは相手にプレスをかけることはできません。そのため、“高さ” が有効的な対抗策となるのですが、バルセロナはここに弱点がありました。

表1:フィールドプレーヤーの身長差
バルセロナユヴェントス
ピケ 194cm ボヌッチ 190cm
マテュー 189cm マンジュキッチ 190cm
ラキティッチ 184cm ケディラ 189cm
スアレス 182cm キエッリーニ 187cm
ユムティティ 182cm イグアイン 184cm
S・ロベルト 178cm A・サンドロ 181cm
ネイマール 175cm ピアニッチ 180cm
マスチェラーノ 174cm クアドラード 179cm
イニエスタ 171cm ディバラ 177cm
メッシ 170cm ダニ・アウベス 172cm
平均身長:179.9cm 平均身長:182.9cm

 プレー内容が批判されているマテューを起用した理由は “高さ” を求めたからでしょう。

 もし、ジョルディ・アルバを起用していたのであれば、バルセロナの平均身長は 178cm となります。ユヴェントスの平均身長から約 5cm も低くなるわけですから、質の高い左右のキッカーがいることも考慮するとリスクが高すぎるのです。

 

ウンスエは分析に失敗した

 セットプレーの専門家であるファン・カルロス・ウンスエですが、空中戦の脅威を読み違えてしまったと言えるでしょう。ピケ、セルジ・ロベルトをフリーマンにしましたが、マッチアップの問題が浮き彫りとなり、3点目を奪われることになったのです。

  • アンドレ・ゴメス v ボヌッチ
  • ラキティッチ v マンジュキッチ
  • ユムティティ v ケディラ
  • スアレス v イグアイン
  • マスチェラーノ v キエッリーニ

 「187cm のキエッリーニをマンマークしたのが 174cm のマスチェラーノだった」という点がすべてです。アメフトかラグビーと見間違うほどにユニフォームを掴み、自由を与えなかったものの、ヘディングで決められるという有様だったからです。

 マスチェラーノにマンマークをさせるなら、171cm のチリ代表ガリー・メデルに手を焼くイグアインを担当させるべきでした。空中戦に強く、好戦的であるキエッリーニをセットプレーで5番手と位置づけてしまっていたのでは、失点は避けられなかったことでしょう。

 

「空中戦対策を施した上で、“チンクエ・ステッレ” の持ち味を消す」というミッションがバルサを待ち受ける

 2戦目で逆転突破を狙うバルセロナには難しいミッションが課せられています。5つ星(チンクエ・ステッレ)と称されるユベントスの攻撃陣を抑え続けた上で、空中戦への対応も並行する必要があるからです。

 相手守備陣にとってみれば“チンクエ・ステッレ”は頭を抱えるしかない。最前線のイグアインから目を離すわけにはいかないが、かといってディバラも絶対フリーにはできない。そしてサイドでボールを収めるマンジュキッチの脅威は、高さではなくアシストする働きだ。そして逆サイドに配されたクアドラドのドリブルは1対1では止めようがなく、数的不利を作られる。

 またピアニッチの傍らにガード役のMFケディラを置いたことで、司令塔の攻撃的なパスワークは安定。仮に直接FKを与えればミラン戦のように狙いを定めてくる。

 雑誌 Number のウェブコラムに上記のように掲載されていましたが、「過大評価だ」と言えないことは1戦目のパフォーマンスが証明しています。

 押し込まれ続けたとしても、「カウンターで得点しなければならない」という重圧はないはずです。“FK の名手” と空中戦を得意とする選手が複数いる訳ですから、CK やセットプレーは決定機と割り切り、試合巧者ぶりを発揮することでしょう。

 ユヴェントスをパニックに陥れ、再び奇跡を起こすことができるのか。バルセロナに起死回生策があるのかに注目する必要があると言えるのではないでしょうか。