ネイマールの PSG 移籍はジダンのレアル移籍より経営インパクトは少ない

 バルセロナから PSG に移籍したブラジル代表のネイマール選手について、莫大な移籍金が支払われたことで騒動が起きています。

 2億2000万ユーロの移籍金は確かに「法外なもの」と言えるでしょう。ただ、過去にジネディーヌ・ジダン選手がユヴェントスからレアル・マドリードに移籍した際のことを考えると許容範囲内だと思われます。

 

 ネイマール選手の移籍金は超高額です。絶対値が大きいため、否定できる根拠はないと言えるでしょう。しかし、「経営へのインパクト」という点では違ってきます。

表1:ジダンとネイマールの移籍
  ジダン ネイマール
移籍 レアル・マドリード
〔 ← ユヴェントス〕
PSG
〔 ← バルセロナ〕
クラブ
売上高
1億3800万ユーロ
(2001年)
5億2090万ユーロ
(2015/16)
移籍金 8000万ユーロ 2億2000万ユーロ

 

 デロイト社のフットボール・マネーリーグによるクラブ売上高と比較すると、ジダン選手の移籍金はレアル・マドリードが当時記録していた売上高の半分を超える金額でした。一方のネイマール選手は PSG の売上高の半分未満であり、「財政的に無謀」とは言えない額です。

 ただ、現在のサッカー界にはファイナンシャル・フェア・プレー(FFP)が存在し、巨額の赤字を計上したり、オーナーがポケットマネーで補填することは禁じられています。

 単純比較はできませんが、2001年時点で売上高が2億ユーロを超えていたのはマンチェスター・ユナイテッドのみです。そうした状況を踏まえても、クラブ売上高の半分以上の金額を1選手に費やしたレアル・マドリードによるジダン選手獲得の方が大きなインパクトを与えたと言えるでしょう。

 

 2000年初頭と比較して、サッカー界はグルーバル化が急速に進み、世界中からスポンサーを集めることができるビッグクラブを中心に売上高が飛躍的に伸びました。

 レアル・マドリードの 2015/16 シーズンの売上高は6億2010万ユーロです。3倍以上に売上高は伸びており、7億ユーロの大台に最初に到達するのはどのクラブかという競争をしている状況です。

 シーズン売上高が4億ユーロに到達しなければ、欧州クラブの中でトップ10入りを逃すことが現状であり、クラブ規模の成長は加速する一方なのです。

 

 もちろん、“サッカーバブル” が弾ける可能性はあります。「オイルマネー」に過度に依存しているクラブが中東地域の緊張による影響を受け、経営が行き詰まるなどのケースが考えられるからです。

 しかし、事前に存在が分かっているリスクであれば、マネジメントすることは可能です。致命傷を負わずに済む方法を考え、リスクマネジメントに投資をしていたクラブは成長のスピードが緩まることはあったとしても、クラブ運営が成り立たなくなる事態を回避し、再び成長を続けることでしょう。

 サッカー界は FIFA のブラッター会長が国際化を推し進め、途上国に資金のばら撒きを行ったことでマーケットのパイが世界中に拡大し、最大化となりました。その結果、“最も国際的なスポーツ” という一面が世界中に知れ渡っている競技に資金が流れ込む傾向は変わらないと考えらます。

 

 ネイマール選手の移籍金は莫大なものですが、国際的に知名度が高い超一流のサッカー選手にそれだけのスポンサー価格が付くことは時代の流れと言えるでしょう。

 「比率」ではジダン選手に費やされた額を超える選手は現れないと思われます。しかし、「絶対値」ではネイマール選手を超える選手は出てくることは確実です。インフレが進むことが当たり前なのですから、絶対値ばかりを見ていると思わぬ “落とし穴” に落ちてしまうリスクを考える必要があるのではないでしょうか。