インテル・ミラノが復活するために乗り越えなければならない壁
サッカー日本代表の長友佑都選手が所属するイタリアのインテル・ミラノが蘇寧電器グループ(中国)に買収されました。
復活の青写真を描いていたのはエリック・トヒル現会長も同じです。新しいオーナーとなる張近東(チャン・ジンドン)氏はインテルの前に立ちふさがっている様々な障害を乗り越えることができるでしょうか。
UEFA FFP の存在
まず、インテルはファイナンシャルフェアプレー(FFP)によって大きな影響を受けています。これは「クラブの赤字経営を禁止する規定」なのですが、モラッティオーナー時代のようなポケットマネーによる補填が禁じられたことで経営方針の転換を強いられることとなりました。
今季(2015/16 シーズン)終了時に認められる累積赤字額は3000万ユーロ。UEFA から既に罰金処分が科されているインテルはこの数字を遵守しなければなりません。
ただ、インテルの 2014/15 シーズンの財務状況は 4530 万ユーロの純赤字で、経常外費用も入れた総額では 7400 万ユーロの赤字であることが発表されています。
FFPが過去3シーズンの合計収支で見られることを考えると、新オーナーによる資金投下が可能になるには少し時間を要することになりそうです。
ホームグロウンルールの本格始動
次にネックになると思われるのが、ホームグロウンルールが本格始動することです。
国外出身選手によってチームが構成され、自国選手が活躍する場が失われていることはヨーロッパの主要リーグで問題となっています。その対策として、ホームグロウンルールが導入されるのですが、伝統的に外国籍選手を多く獲得してきたインテルには逆風となる可能性があります。
イタリアのホームグロウンルールは25人の選手登録枠に、ユース出身選手を4名とその4名とは別にイタリア育ちの選手4選手を含めなければならないというものです。
- ユース出身(4枠)
- ジョナタン・ビアビアニー(FW)
- ダビデ・サントン(SB)
- トンマーゾ・ベルニ(第3GK)
- イタリア育ち(4枠)
- マウロ・イカルディ(FW)
- ダニーロ・ダンブロージオ(DF)
- 制限なし(17枠)
今シーズンのメンバーでは要件を満たしていないことは明白であり、選手の入れ替えは不可欠です。その際のバロメーターは「21歳までに3年イタリアで過ごしていたか」が1つとなります。
登録枠を空けたままでシーズンを乗り切ることができるとは考えにくい試合数であり、チーム編成そのものを見直す必要はあると言えるでしょう。
FFPとホームグロウンルールの具体的な対策は?
トヒル会長が掲げていた「チャンピオンズリーグ出場による財政改善案」はイタリアの出場枠が3になったため、難しくなりました。
また、インテルの補強戦略が「ローン移籍の形で、完全移籍による移籍金の支払いを先延ばしにする」という手法が多く、“隠れ負債” が存在する状態です。これではFFPの制約を逃れようとしているとUEFAに目をつけられる要因となるでしょう。
新オーナーとなった蘇寧グループが採れるやり方としては “スポンサー企業として資金をインテルに投下する” という方法が現実的でしょう。マンチェスター・シティやパリ・サンジェルマンのオーナー陣が実際に使っている手法です。
ナイキ製のキット類、胸スポンサーのピレリ、スタディオ・ジュゼッペ・メアッツァという『インテルの代名詞』となっているものを中国色を強めることで補強用資金をFFPに抵触することなく、手にすることができます。
大きな反発を招くリスクもありますが、チームがV字回復するにはそのぐらいの “劇薬” を服用することが必須となるでしょう。
ホームグロウンルールについては適用そのものを延期させない限り、どのチームも守らなければなりません。ミラノというイタリア屈指の大都市をホームタウンとし、インテルというチームブランドを持っているのですから、中長期的にユース選手の確保で困ることはないと思われます。
若手選手の育成による結果が現れるのはこれからのことです。財政基盤を安定させることを最優先とし、それと並行して、若手の育成・抜擢プロセスを確立させることが新オーナーに求められていると言えるのではないでしょうか。