大型補強のミラン、スポンサーを務める銀行に債権の発行を断られ窮地に

 今夏に大型補強を敢行した AC ミランですが、所定の移籍金を支払うことができていないため、ボヌッチやビリアを選手登録することができていないとガゼッタ・デッロ・スポルトが報じています。

 ミランのファッソーネ CEO は「締め切り(8月11日)までに解決できる」とコメントしていますが、疑問符が付いたままです。ミランが抱える資金面の問題を整理することにしましょう。

 

1:中国人オーナーは投資ファンドからの借り入れでミランを買収した

 ミランはベルルスコーニ家から中国人のリー・ヨンホン氏が率いる投資ファンドに売却されました。

 ただ、買収に費やした金額のうち、3億ユーロは悪名高い投資ファンド『エリオット』から借りる形となっており、18ヶ月以内に利息 10% を付けて返済する義務をミランは負っています。

 これはミランにとって重荷と言えるでしょう。もし、期日中に返済ができなければ、ミランの経営権は『エリオット』に移るため、『エリオット』が抵当権の最上位に位置している状況なのです。

 

2:ボヌッチとビリアの移籍金に対する担保がミランにはなかった

 ミランが獲得したボヌッチとビリアの移籍金は以下のとおりです。

  • ボヌッチ:4200万ユーロ
  • ビリア:1700万ユーロ

 現金で全額決済することができれば、銀行に金融債の発行を依頼する必要はありません。ただ、ほとんどのクラブは多額の現金を持っている訳ではないのですから、“クラブの資産” を担保に銀行から資金を借りる形になることは普通なのです。

 イタリアでの移籍金の支払いルールは「2017/18 シーズンの支払いは8月11日までに 20% を支払い、残りは支払い保証を示すこと」とガゼッタ・デッロ・スポルトで取り上げれています。

 担保のないミランは『支払い保証』の点で暗礁に乗り上げていると言えるでしょう。

 

 

3:なぜ、「担保となる資産がない」と銀行に見なされたのか

 ミランのスポンサーを務める BPM (バンコ・ポポラーレ・ディ・ミラノ)銀行が金融債の発行に難色を示したのは「ミランが担保となる資産を保有していない」と判断したからです。

 これは『エリオット』が先に抵当を打っていることが理由です。

 ミランの売上高・不動産・商標などは『エリオット』が確保済みです。つまり、『エリオット』が手を付けていない資産でボヌッチとビリアの移籍金(5900万ユーロ)に相当する資産に抵当を付けなければ、ミランからの返済が滞った際に多額の不良債権を抱えることに直結してしまうのです。

 ボヌッチとビリアを獲得する前に8選手をミランは獲得していますし、イタリアの銀行は厳しい経営環境に置かれています。シビアに判断されても止むを得ないと言えるはずです。

 

4:不良債権問題で揺れるイタリアの銀行からの融資は引き出しにくいのでは?

 三井住友アセットマネジメントがレポートしているイタリアの銀行部門は多くが不良債権で苦しんでいます。

表1:イタリアの銀行部門の不良債権(単位:億ユーロ)
  ポポラーレ BPM 合計
貸出残高 860 340 1200
不良債権 210
(23.9%)
40
(10.5%)
250
(20.8%)
バッドローン 110
(13.1%)
20
(4.7%)
130
(10.8%)

 ミランのスポンサーを務める BMP 銀行はマシな方ですが、バンコ・ポポラーレと合併したことで債権の額も大きくなっています。不良債権問題で揺れるイタリアで返済不能となるバッドローンに資金をつぎ込む判断は下しにくいと思われます。

 また、イタリアの大手銀行が苦しむ状況下で中規模銀行から融資を得られるとも難しいでしょう。資金繰りに苦しむ状況から抜け出せなければ、獲得した選手を使えないという状況に陥ることも十分にあると言えるのではないでしょうか。