マクロン・フランス新大統領の成否は「議会で共和党との連携が取れるか」にかかっている

 フランス大統領選の決選投票が行われ、(メディアの期待どおりに)マクロン氏が勝利したと NHK が伝えています。

 ただ、これは序章にすぎません。なぜなら、議会に支持基盤を持たないマクロン氏が経済問題や移民・難民問題にリーダーシップを発揮し、取り組まなければならない立場にあるからです。

 

 フランス大統領選挙は7日、決選投票が行われ、内務省によりますと、開票はほぼ終わり、マクロン候補の得票率が66.06%、ルペン候補が33.94%で、マクロン氏がルペン氏を破って勝利しました。

 マクロン氏はパリ市内のみずからの陣営からテレビで演説し、「非常に大きな名誉で大きな責任を感じる。社会の分断や経済問題など、多くの課題がある中で、国民とともに進んでいきたい」と述べ、勝利を宣言しました。

 

 メディアは “社会の分断” という言葉を安易に使っていますが、勝利した与党が有権者から絶対的な支持を得ているケースの方が珍しいことです。

 マクロン氏は得票率で見れば、66% と圧勝と言えるでしょう。しかし、得票数だとマクロン氏の2100万票に対し、ルペン氏は1100万票。5倍近くの差が生まれた2000年前半とは時代が大きく変わっていることを自覚する必要があります。

 

 フランスの新大統領となるマクロン氏ですが、最大の焦点となるのは経済政策です。経済を好調にすることができれば、政治スタンスに関係なく評価されます。

 「良い生活を与えてくれた」と感じる有権者が多ければ、変化を求める人は少数となり、多選への道が開けることになるのです。しかし、マクロン氏が掲げた公約には懸念が示されており、先行きはかなり不透明です。

  • 国民が受ける恩恵
    • 再生エネや教育などの分野に5年500億ユーロの成長投資を行う
    • 住民税や法人税の減税を実施
    • 軍事、司法、刑務所関連の支出を増加
    • 失業率を 7% 未満に下げる
    • 年金支給開始年齢は現行内容を維持
  • 国民が受ける痛み
    • 国家、地方自治体の歳出削減などで5年600億ユーロを捻出
    • 社会保障、失業給付の圧縮
    • 公共部門の人員を12万人整理

 要は、民主党政権が掲げた “埋蔵金” を元手にした非現実的な政策ばかりが並んでいる状況なのです。オランド政権で経財相として、政権に加わり、実績を残すことができなかったマクロン氏が理想として掲げた自らの経済政策で結果を残せるかということに大きな疑問が残ると言えるでしょう。

 

 現時点では、口先だけで実行力のなかったオバマ・アメリカ前大統領の “二番煎じ” となる可能性が極めて高い状況です。

 政策を立案しても、賛同が得られず、実行に移されなければ意味がありません。マクロン氏が率いる政策集団も、政党としての議席はゼロ。6月に行われる総選挙で単独過半数を得る予想は出ておらず、議会運営で苦労すると見られています。

 現・議会与党は社会党を中心とする左派ですが、中核を担う社会党の支持が低下していることを考慮しなければなりません。共和党を中心とする中道右派勢力が議会与党に返り咲く可能性が極めて高く、連立を組むための交渉をまとめきれるかが鍵となるでしょう。

 ただし、中道右派が掲げる経済政策は “小さい政府” が基本になっており、バラマキとなる政策には難色を示される傾向があります。「解雇規制の緩和」でオランド政権への風当たりが一気に強くなった過去もあり、マクロン氏の出方にかかっています。

 

 今後はマスコミによる「マクロン上げ」の記事が多くなるでしょう。オバマ大統領と同じで、マスコミ映えがする人物で記者が喜ぶメッセージを発してくれるからです。

 しかし、口先だけで実行力が伴わないことによる損害は大きいことは有権者が痛感したはずです。日本にとっての救いは「フランス大統領の発言・行動はアメリカ大統領のものと比較すると影響度が少ないこと」です。

 得意の弁論でその場を取り繕うことのセンスは超一流だと思われます。ですが、安全保障や経済政策といった大統領としての業績を残すことに失敗すれば、「極右大統領の誕生をお膳立てした人物」として歴史に名を残すことになるでしょう。

 

 政治家として必要不可欠な要素である結果を残すことができるのかに注目と言えるのではないでしょうか。