湾岸諸国がカタールとの国交を断絶、地域間の緊張は経済へと波及するだろう

 サウジアラビアを中心とする湾岸諸国がカタールとの国交を断絶したと NHK が報じています。

 「カタールがイスラム過激派の活動に理解を示していることが理由」と湾岸諸国側は主張しており、地域間に緊張をもたらすことになるでしょう。資源国であるカタールは当面の資金に困ることはありませんが、“テロ支援” という印象は好ましくなく、世界経済への悪影響も考慮しておく必要があるはずです。

 

 カタールとの国交断絶を発表したのは、アラビア半島のサウジアラビア、UAE=アラブ首長国連邦、バーレーン、イエメンに加え、エジプト、それにインド洋の島国のモルディブの、合わせて6か国です。

 断交の理由として各国は、カタールがサウジアラビアと対立するイランが支援する組織と関わっていることや、エジプト政府と対立するイスラム組織「ムスリム同胞団」と関係していることを挙げ、「テロ組織や過激主義者を支援している」などと主張しています。

 (中略)

 各国がカタールからの航空機や船舶による空港や港などの利用を禁止したことから、航空会社各社がカタールを発着する便の運航を相次いで中止したほか、カタール航空もサウジアラビア、UAE、バーレーン、エジプトへの運航を取りやめました。このため、カタールやその周辺への人の往来や物流が滞るのは避けられない情勢で、経済活動への影響が広がるものと見られます。

 

 現状ではカタールと周辺に位置する湾岸諸国との国交が断絶された段階です。

 カタールと湾岸諸国間の人の往来や物流はすでに滞りが発生していますが、日本を含む湾岸諸国以外の国との関係には影響は出ていない状況です。ただ、湾岸諸国間の緊張が波及する恐れがあり、予断は許されないと言えるでしょう。

 

イスラム原理主義に理解を示してきたカタール

 問題の発端となったのはカタールがイスラム原理主義勢力に理解を示してきたことでしょう。三菱東京UFJ銀行・国際業務部が以下のようなレポート(PDF)を2014年に発表しているからです。

 カタールのムスリム同胞団支援については、1960年代にエジプトを逃れて亡命してきた元ムスリム同胞団のメンバーイスラム法学者カラダーウィー師を国内に迎え入れたことが背景にあるといわれる。「カラダーウィー師は元ムスリム同胞団員であるから、ムスリム同胞団を支援してカタールの影響力拡大を図る。カラダーウィー師を保護すればイスラム過激主義からカタールを守ることもできる」というカタール首長の計算であるという。

 この考えが通用するとは言えないでしょう。「暴力団の元・最高幹部を迎え入れ、暴力団を支援して、自らの影響力を高める」という手法と変わらないからです。

 暴力団を用心棒に雇えば、攻撃の矛先は自らに向く可能性を低くすることは期待できます。しかし、“活動資金を与えてた協力者” となる訳であり、暴力団の活動による損害を被る人々が増える結果を招くという視点が抜け落ちていたことが問題となったのです。

 

喫緊の課題は「カタールが食料品を確保できるか」だ

 真っ先に影響を受けるのはカタール国内の食料品分野でしょう。なぜなら、先述した三菱東京UFJ銀行のレポートに次のように記載されているからです。

 食料の90%を輸入に頼るカタールは、2030年を展望に据えた国家ビジョン「Vision 2030」の中で、食糧安全保障を優先課題に掲げている。砂漠地帯の地下水くみ上げや淡水化で無理やり農業を行う方法もあるとはいえ、サウジアラビアではこれが失敗し、しかもカタールにはサウジアラビアのような広大な土地が存在しない。

 そこで採用したのが世界各地での農地の買い上げである。カタール投資庁傘下の Hassad Food はオーストラリアで小麦栽培と牧羊の13の大農場・牧場を買収。アフリカでも、スーダンで10万ヘクタール、ケニアで4万ヘクタールの農地を買収した。

 資源国で食料品を買い集めるだけの資金はありますので、慢性的な食料品不足に陥ることはないと言えるでしょう。

 しかし、食料品関係は陸路でサウジアラビアから主に輸入しており、その物流網が今回の国交断絶で寸断されました。そのため、物流網が再構築されるまでは品不足が続くことは火を見るより明らかです。

 イスラム教が根付いた国であり、『ハラール認証』が欠かせないことを考えるとすぐに混乱を収めることは難しいと言えるのではないでしょうか。

 

「LNG の輸入に波及すること」が日本にとっての最大リスク

 日本にとって、湾岸諸国がカタールとの国交を断絶したことによる最大のリスクは「LNG の輸入に影響が出ること」です。

 ガベージニュース』を執筆する不破雷蔵氏がグラフ化した「日本の LNG (液化天然ガス)輸入先」でカタールは3位にランクインしており、調達が難しくなるリスクがあることを踏まえると、悠長な姿勢を採ることはできないはずです。

画像:LNG の輸入先(2015年)

 LNG は都市ガスや火力発電に利用されます。原発再稼働に反対するキャンペーンを展開している朝日新聞などのメディアは電力の安定供給のため、カタールと湾岸諸国の関係修復に奔走すべきでしょう。

 「(イランによる)ホルムズ海峡の封鎖はあり得ない」と主張していた言論が過去にはありましたが、「カタール行きの船舶がホルムズ海峡を通過することは認めない」という形で締め出しが起きれば、同じ結果を招くことになるリスクが存在することを忘れているのではないでしょうか。

 

 アメリカ中央軍はカタールのアル・ウデイド空軍基地を使用し、アメリカ海軍第5艦隊の司令部はバーレーンに置かれています。そのため、中東情勢への影響を及ぼすことは確実と言えるでしょう。

 「日本経済への影響はない」と決めつけるのはリスクが高すぎると言えるのではないでしょうか。