台湾で発生した大停電は人為的ミスだけが原因ではない

 台湾全土で発生した大停電に対し、反原発を訴える朝日新聞は「人為的なミス」が原因だったとの記事を書いています。

 しかし、これは問題の本質を見落としています。なぜなら、根本的な問題は「供給電力が逼迫していたこと」であり、「作業ミス」はきっかけに過ぎないからです。

 

 15日午後4時50分ごろ、台湾各地で大規模停電が発生した。台湾電力などによると、北部の台北市から南部の高雄市まで、ほぼ全域の17県市で、台湾の全契約世帯の半数にあたる668万戸が停電した。段階的に回復しており、15日中には復旧する見通しという。

 台湾当局によると、人為的なミスで燃料供給が止まり、発電施設が停止した。この日は日中の気温が35度を超す猛暑日で、消費電力が上がったため、供給電力が逼迫(ひっぱく)し、大規模停電につながったとみられる。

 

 “人為的なミス” は業種を問わず発生します。もし、「ミスをしたことがない」という人がいれば、場数が極端に少ないか、ミスを隠蔽している可能性があると言えるでしょう。

 それだけ大小様々なミスは日常的に起きているものなのです。そこで重要となるのは「少々のミスはカバーされる体制の構築」です。

 これができていなかったことが大停電を引き起こしたと認識しなければならないのです。

 

1:電力の予備率を甘く見ると、ブラックアウト(=大停電)という形でツケを払うことになる

 電力は需要と供給のバランスが保たれていることが大前提です。ただ、需要は時間帯によって変化するため、発電の余力である “予備率” が重要となるのです。

画像:電力予備率の重要性

 電力インフラは「需用量=供給量」のバランスを保つことで成り立っています。

 通常はバランスが保たれ、“予備率” という形で供給側に余力のある状態で運用されているのですが、何らかの原因でトラブルが発生し、供給量が激減する事態に陥ってしまうと、大停電(=ブラックアウト)が発生することになってしまうのです。

 

2:台湾の大停電は「予備率の低さ」に加え、「火力発電所からの供給が人為的ミスで落ちた」ことが原因

 台湾で発生した大停電の理由は以下の2点です。

  • 予備率が 3% を切っていた
    (→ 日本の場合は 8〜10% が一応の目安)
  • 人為的ミスで火力発電所の出力が落ちた

 予備率は “余剰電力” という見方もできるため、多すぎるとムダを生じることになります。しかし、発電所でトラブルを検知した場合、運転を停止した上で安全確認や対応をする必要があるため、一定の予備率は絶対に必要なのです。

 予備率をゼロに近づける運用方針を採用していた場合、小さなトラブルで一時的に発電能力が落ちただけで大停電が発生するという事態が起きることになるでしょう。

 

3:なぜ、反原発の方針が問題視されたのか

 「反原発の方針が停電を引き起こした」と批判が起きています。原子力発電所の運転を政治的に止め、電力不足状態が生じていた中で人為的ミスによって大停電が起きたからです。

表1:台湾の原子力発電所における運転状況
発電所 発電量
第一原子力発電所 1号炉 636 MW
2号炉 636 MW
第二原子力発電所 1号炉 985 MW
2号炉 985 MW
第三原子力発電所 1号炉 956 MW
2号炉 958 MW
第四原子力発電所 1号炉 1350 MW
2号炉 1350 MW
大潭発電所(LNG:1〜6号機) 4384 MW

 送電が一時的にストップしたのは大潭の LNG 火力発電所。台湾全体の需用量の 10% 強を発電していたのですが、人為的ミスによって発電量がゼロとなってしまいました。当然、3% に満たない予備率ではカバーしきず、送電網を守る形でブレーカーが落ち、大停電となったのです。

 反原発派が批判される理由は「政治的に運転を止めている原子力発電所が稼働していれば、大停電は起きなかった」と考えられるだけの発電量があったからです。

 当時運転していた原発は(グリーンで線引きされた)3基です。政治的に稼働を止められている第四原発の2基と第二原発2号炉を稼働していれば、発電量は 10% 強になるため、(予備率も含めると)大潭発電所からの供給分をカバーするだけの能力はあったと言えるでしょう。

 そのため、「反原発派が停電を起こした主犯格」として、産業界などを中心に批判されることになったのです。

 

 同じことは日本でも起きる可能性があります。ただ、日本の場合は “人為的ミス” が原因ではなく、“老朽化した火力発電所が緊急停止” したことが原因になるでしょう。

 原子力発電所が運転していれば、火力発電所をメンテナンスするために運転を停止したり、旧型の発電炉を最新型に更新するための余裕が生まれます。

 しかし、そうした余力はなく、無理やり運用していることが現状なのです。定期検査すらスキップさせて運用させている状況を問題視しない反原発派ほど無責任な存在はないと言えるでしょう。

 彼らは「電力は足りている」と主張していますが、電力会社が「何とか捻出している」ことが実態です。もし、火力発電所で老朽化が原因の事故が起きても、「管理体制に問題があるのではないか」などと他人事のように批判するものと思われます。

 キレイゴトしか述べない無責任な反原発派の主張に賛同しても、結局は社会全体が苦しい思いをさせられることを学ぶ必要があると言えるのではないでしょうか。