稼げる業界であることが数字で示されない限り、若者が魅力を感じることはないだろう

 日経新聞が8月18日付の記事で、「稼げなきゃ若者はこない」と東北地方・太平洋側の漁業低迷にスポットを当てています。

 人手不足が深刻になる中で、稼げない(≒割に合わない)仕事に魅力を感じる人は少ないことは明らかだからです。“やりがい” という言葉で誤魔化すことには限界があるとの認識で抜本的な対策が求められていると言えるでしょう。

 

 昭和の終わりごろにはこの地域にホタテ漁師が160人、ワカメ漁師は200人いたが、今ではホタテは23人、ワカメは30人まで減ってしまった。通常の民間企業で働く労働者の所得が漁師の所得を超えるようになったため、サラリーマンと兼業で漁をする人々が浜を離れていった。

 (中略)

 買い付けに来ていた鮮魚店の津田祐樹氏は「高く売れるようなとり方にして、稼げるようにしないと若者は漁師になりたがらない」と語る。

 

 「民間企業で働いた場合の所得 > 漁師とした働いた場合の所得」という状況であれば、多くの人は民間企業で働くことを選択するでしょう。リスクが高い上、収入が低い職種は敬遠されることは普通だからです。

 また、漁師で生計を立てるには “資源” の管理が不可欠です。この点は政治案件ですので、漁獲資源を保護・維持するにはどういった方針が効果的であるかを論じる必要があることを忘れてはなりません。

 

1:日経新聞が取り上げた「漁労取得99万円」には注意が必要

 三陸を含む、青森県から茨城県までの太平洋側で個人経営体として漁業を営む人々の平均漁労取得が99万で、他の地域と比較して少ないことは事実です。

画像:漁業所得の比較(日経新聞より)

 ただ、細かい部分を『漁業経営調査』で公開されている数字を確認すると「別の問題がある」と言えるでしょう。

表1:個人経営体の所得比較
北海道
(太平洋側)
青森県〜茨城県



平均 425万円
収入:1305万円
支出:880万円
99万円
収入:1326万円
支出:1227万円
3トン未満 197万円
収入:563万円
支出:365万円
171万円
収入:717万円
支出:545万円
3〜5トン 305万円
収入:1394万円
支出:1089万円
291万円
収入:1032万円
支出:741万円
5〜10トン 1568万円
収入:4093万円
支出:2525万円
10〜20トン 963万円
収入:5475万円
支出:4512万円
- 544万円
収入:5394万円
支出:5938万円
20トン以上 - 516万円
収入:9485万円
支出:1億円
小型定置網漁業 379万円
収入:886万円
支出:507万円
494万円
収入:4263万円
支出:3769円

 

2:5トン未満の小型漁船による漁業は平均漁業所得を下回るのが一般的

 青森県から茨城県までの太平洋側の漁業による所得水準が著しく低い理由は「10トン級以上の漁船漁業が不振であること」が大きいと言えるでしょう。

 5トン未満の漁船から得ている所得は全国一の所得水準を誇る北海道(太平洋側)と変わらないからです。ちなみに、5トン未満の漁船による所得が平均所得額を上回っているのは以下の2例だけです。

  • 北海道(日本海):3〜5トン
    • 平均所得:409万円
    • 当該所得:759万円
  • 瀬戸内海:3〜5トン
    • 平均所得:284万円
    • 当該所得:322万円

 つまり、平均所得を押し上げている規模の大きい船舶による漁業における所得が下がっている原因に対処すれば、平均所得は300万円台まで回復することでしょう。しかし、これは対処療法にすぎず、抜本的な改革になっていないことは明らかです。

 

3:漁獲資源を保護し、個別漁師の所得水準を上げることが求められている

 漁業を行うに当たって、漁獲資源を保護することは不可欠です。漁獲資源がなくなれば、漁業そのものが成り立たなくなるため、これは理解される点でしょう。

 しかし、高齢漁師の場合は「将来を見越した資源保護」より「目先の利益」を優先する場合があることが想定できるため、政治的決断が必要となります。

 まずは漁獲量の総量を決め、資源保護を徹底する必要があります。密漁が横行することが予想されるため、“消費者購入価格を上回る額での罰金” を制度として設けるなど「密漁が割に合わない」という状態にしなければなりません。

 漁の期間で調整しようとすると、「その期間でどれだけ効率的に取るか」という競争を招く要因となるため、資源保護には貢献しないと思われます。

 漁業免許に漁獲可能量の上限を紐付け、違反した場合は免許剥奪という形で強制的にすべきでしょう。経験がある漁師はコンサルタント的な業務を行うなど漁師以外でも稼ぐ手段はある訳ですから、免許の取得は誰でも可能になっている必要があります。

 

 参入障壁の高い業種は給与面以外でも敬遠される理由があることを知った上で、制度そのものを見直さないかぎり、若者が就職を希望することは絶望的であることを理解する必要があると言えるのではないでしょうか。