「学業優秀な生徒」より「低所得家庭の生徒」を優遇する日本の大学レベルが低下するのは当然の成り行き

 2020年4月から開始予定の「低所得世帯を対象とする高等教育の無償化」についての報告書が文科省でまとまったと NHK が報じています。

 この方針を進めるのであれば、日本の高等教育は現状より地盤沈下が進むことでしょう。なぜなら、『学業優秀な生徒』よりも、『低所得世帯の生徒』が優遇される措置になっているからです。

 

 報告書では、住民税が非課税となる年収270万円未満の世帯の子どもは、国立大学では授業料を免除し、私立大学ではすべての私立の平均の授業料と国立の授業料の中間の額を上限に支援を行うとしています。

 これを今の授業料で計算すると、国立大学では全額の年間およそ53万6000円、私立大学ではおよそ70万7000円が減免される見通しです。

 (中略)

 支援にあたっては進学の意欲や目的なども確認するとともに、入学後に1年間で取得した単位が基準の半分以下の場合などは支援を打ち切るとしています。政府はこの支援策を2020年4月から始める方針です。

 一応の「足切りライン」は設けられる予定となっていますが、“アリバイ作り” に過ぎないでしょう。『大学全入時代』となり、地方の私立大学では留学生を頼って学校経営を行う状況下で進学費用を国が負担するメリットが見えないからです。

 

評価される『学術論文』を執筆するには『研究の質』を確保し続けることが必須

 日本の大学は「相対的な地位が低下している」と日経新聞が取り上げる状況となっています。『研究の質』を向上させたり、『学術論文』の発表数を増やしたりする大学と比較すると、頭打ちになっていることが読み取れます。

画像:大学の勢力図(日経新聞より)

 東京大学や京都大学など日本の大学は世界の中で相対的な地位が低下している。学術論文数と研究の質の関係を見ると、2002~06年の論文数では東大は米ハーバード大学に次ぐ2位、京大も8位につけていた。研究の質でも欧米の有力大学のグループに次ぐ位置につけ、研究活動は世界でも有数だった。ところが12~16年になるとその構図は崩れる。学術論文数、研究の質で欧米の有力大学はその地位を維持する一方、日本の大学はいずれも順位を大きく落としている。

 日本のトップに位置する東大や京大であっても、世界における存在感は徐々に失われつつあるのです。

 当然、「『研究の質』を高める環境を整備し、良い内容の『学術論文』を発表すること」が対策となります。しかし、真逆の効果をもたらす政策を文科省が主導している時点で終わっていると言えるでしょう。

 

「学業優秀な学生」を確保することが必要不可欠

 まず最初に「学業優秀な学生」を確保しなければなりません。

 学業優秀な学生が「経済面」を理由に進学を断念することは避ける必要があります。この問題は給付型奨学金で容易に解決できますし、「旧帝大やそれに近い私立大に一般入試で進学した生徒を対象に奨学金する」という方式であれば、支給反対派はごくわずかになるでしょう。

 ところが、文科省は「低所得世帯の希望者には学力に関係なく、奨学金を給付する」とのバラマキを決めたのです。“Fラン” に属する大学へ進学希望をしても支給対象になる訳ですから、予算の配分が間違っていると言わざるを得ません。

 そのため、(奨学金給付の)対象から漏れた所得世帯に属する生徒は優秀であればあるほど、海外の大学へ直接進学する流れが固定化することになるでしょう。

 なぜなら、「 “学業” に対する奨学金」を出してくれるからです。もちろん、世帯収入による補助もありますが、基本は成績で判断されるのです。生徒や保護者から見れば、非常にフェアに映る制度と言えるでしょう。

 

『研究の質』は「優秀な研究者が研究にどれだけ専念できるのか」も重要である

 また、『研究の質』を確保するには「研究者の資質」に加え、「研究環境」も重要です。どれだけ優秀な研究者であっても、事務手続きなどの研究外の仕事に忙殺されるようでは研究成果を出すことなど期待できないからです。

  1. 有能な研究者の資質が備わっているか
    → 学業成績よりも、低所得世帯の生徒を優遇へ
  2. 研究者が成果を出すための努力を継続しているか
  3. 研究を行うために適した環境が整っているか
    → 事務手続きや授業などで研究にまで手が回らない現状

 有能な学生を自らの研究室に勧誘するために「授業を行うこと」は必須です。どの生徒が目覚ましい業績を残すことになるのかは誰にも分からない訳ですから、有能な生徒を “青田買い” をする必要があるとの認識を持たなければなりません。

 ですが、事務処理や入学試験・定期試験などで研究時間が裂かれることは本末転倒です。この部分は “政治または官庁主導” で改善できることであり、こちらに本腰を入れて取り組むべきと言えるでしょう。

 

 『研究の質』や『学術論文』は3年ほどで目に見える成果が出ない分野がほとんどです。そのため、有望な学生に「研究者として長期的に安定した立場と研究費用」を提示できる環境を作ることが重要なのです。

 すべての大学にそうした条件を整えることは不可能なのですから、研究拠点を集約することも検討しなければなりません。天下り役人などは完全なお荷物ですし、科研費を政治活動に転用する学者も同様です。

 大学など高等教育を受ける時点で「希望者の学力」に差があることは当然なのですから、学力によるフィルタリングをしてから、各家庭の所得に応じた学費負担の割合を定めるべきです。

 『低所得世帯の支援』に本腰を入れたことで、大学の地盤沈下に拍車がかかる事態を招くことは本末転倒であると自覚する必要があると言えるのではないでしょうか。