韓国で『チョ・グク問題』が大きく取り上げられる理由

 ムン・ジェイン大統領が法相に起用しようとしているチョ・グク氏に対する疑惑が持ち上がり、政権運営に影響が出る恐れがあると NHK が報じています。

 実際、「日韓関係の悪化」よりも韓国国内では大きく取り上げられています。チョ・グク氏のスキャンダルによる批判が大きくなっている理由について言及することにしましょう。

 

 韓国では、ムン・ジェイン(文在寅)大統領が法相に起用すると発表した側近をめぐって、娘を名門大学に不正入学させたなどとされる疑惑が持ち上がっていて、日韓関係が悪化する中、今後の政権運営に影響が出ることも予想されます。

 

パク・クネ政権時の “不正” を声高に批判したのがチョ・グク氏

 チョ・グク氏の問題が大騒動になっている理由は「ブーメランになったから」です。

 ムン・ジェイン政権は「パク・クネ政権の不正」によって誕生したという経緯があり、「五大不正(= 兵役逃れ、脱税、不動産投機、論文盗用、偽装転入をするような人物は大臣には不適格」との立場を打ち出しました。

 これを主導したのがチョ・グク民情主席秘書官(当時の肩書き)でした。民情主席秘書官は大統領府の No.2 であり、その地位にあったチョ・グク氏はムン・ジェイン大統領の側近中の側近と言えるでしょう。

 ただ、『五大不正』は違法ではありません。「規則の抜け穴を巧みに利用する」という類のもので法律で裁けないから、庶民の怒りを引き起こしやすいのです。

 

チョ・グク氏が疑われている不正行為

 なお、チョ・グク氏(現・ソウル大学教授)の不正疑惑一覧は以下のとおりです。

表:韓国での五大不正とチョ・グク氏の不正疑惑
兵役逃れ 韓国人男性の義務である兵役を “何らかの理由” で意図的に回避すること
チョ・グク氏の長男が二重国籍を理由に回避
脱税 納税の責務を果たさないこと
学園財団理事長の父が亡くなった際、財産のみを相続して債務逃れを行う
不動産投機 ソウルのカンナムなど人気地区の不動産で土地転がしをすることが代表例
論文盗用 他人の論文を自らのものとすること
チョ・グク氏の娘が2週間のインターンで論文の筆頭著者となり、この業績で高麗大学に無試験で入学
偽装転入 子女を進学校に行かせるため、実際には住んでいないにも関わらず住んだと偽ること

 少なくとも、五大不正の3つは抵触しています。「不動産投機をした」とのスキャンダルは報じられていませんが、代わりに「株式などの投機」で問題視されている状況です。厳しい立場にあることに変わりはないでしょう。

 ただ、“韓国で高い地位を得られる立場にいる人々” は『五大不正』と言われる行為のどれかには手を染めています。子供を海外留学させて現地国籍を取得させれば、韓国の兵役義務を回避できるのです。資金力を持った上流層ほど不正認定される可能性は高くなるでしょう。

 

「せめて受験だけは公平であるべき」との建前が韓国国内では根強い

 韓国は不公平極まりない社会です。どのぐらい不公平かと言いますと、親の立場でほぼすべてが決まるレベルです。

 財閥創業家の “ボンボン” や “お嬢” が「金(またはダイヤ)の匙を咥えて生まれてきた」と揶揄される一方、庶民だと「木」や「土」と卑下される有様です。だから、『現状を抜け出すための切符』を巡る熾烈な争いが起きているのです。

 上流層の仲間入りするには「何かの分野でエリートになること」が最も近道です。スポーツや勉学がそれに該当するでしょう。だから、韓国は超学歴社会となり、「受験だけは公平でなければならない」との意識がより強くなるのです。

 この状況下でチョ・グク氏は「娘のために『切符』を手配した」との疑惑の目が向けられているのです。高校生がわずか2週間のインターンで論文の筆頭著者になることはあり得ないですし、学業も優秀ではありません。

 つまり、多くの韓国人から見れば、「チョ・グクは娘のために限られた『エリートになれる切符』を我々から奪っていった」と映るのです。韓国人の “恨” を刺激する行為ですし、パク・クネ大統領が失脚した時と状況は同じです。

注)パク・クネ大統領のスキャンダルは知人であるチェ・スンシル氏の娘チョン・ユラ氏が「馬術でのメダル獲得」を理由に “願書締め切り後の推薦入試” で合格したことが発端

 

 「他人がすれば不倫、自分がすればロマンス」というダブルスタンダードを露骨に行っているのです。韓国国内からも批判が出るのは当然でしょう。

 ただし、韓国では大統領権限でチョ・グク氏を法相に任命することが可能です。外相のカン・ギョンファ氏も五大不正に抵触している状況でムン・ジェイン大統領が強行任命しました。

 その時とは比べものにならない反発が韓国世論から起きることは避けられないだけに、窮地に立たされているムン・ジェイン大統領がどのように振る舞うのかが注目点と言えるのではないでしょうか。