正社員を解雇できない現状では『雇い止め問題』を解決することは不可能

 朝日新聞の大日向寛文記者が「自動車大手で法改正を “骨抜き” にし、期間従業員の無期雇用を回避する動きが活発化している」と批判する記事を書いています。

 この動きは法改正が行われた時点で予測されていたことであり、想定内と言えるでしょう。『期間従業員(≒派遣)の処遇』を改善したいのであれば、正社員を解雇できるよう法律を改正することが必要不可欠です。

 “正社員の特権” にメスを入れない限り、『雇い止め問題』が解決することは絶対にあり得ないのです。

 

 トヨタ自動車やホンダなど大手自動車メーカーが、期間従業員が期限を区切らない契約に切り替わるのを避けるよう、雇用ルールを変更したことが分かった。改正労働契約法で定められた無期への転換が本格化する来年4月を前に、すべての自動車大手が期間従業員の無期転換を免れることになる。雇用改善を促す法改正が「骨抜き」になりかねない状況だ。

 (中略)

 08年のリーマン・ショック後、大量の雇い止めが社会問題化したことから、長く働く労働者を無期雇用にするよう会社に促し、契約期間が終われば雇い止めされる可能性がある不安定な非正社員を減らす目的だった。

 

 『不安定な非正社員』を減らすには大きく分けて2つの方法があります。

  • 『不安定な立場の非正社員』を減らす方法
    1. 『正社員』に置き換える
    2. 『非正社員』を解雇する

 AとBのどちらを選択しても結果は同じです。『派遣の雇い止め問題』で騒いだのは当時の民主党であり、「夢は正社員」との選挙CMからも分かるように「非正社員を正社員にする」という方策を推し進めたのです。

 ただ、日本の雇用環境は世界基準とは大きく異なっていたことが皮肉な結果をもたらすことになりました。

 

1:解雇・減給がない日本の正社員

 日本市場の特異点は「正社員を解雇できない」ということです。『解雇4要件』が判例で存在するため、会社経営が傾き、手遅れにならなければ解雇は不可能なのです。

 その結果、次のようなことが起きるのです。

  • 日系企業
    • 正社員の数は必要最低限
    • 繁盛期は残業と期間従業員の増員で乗り切る
    • 低迷期は期間従業員を切り、正社員のみで運営
  • 外資系企業
    • 社員数は変動
    • 繁盛期は社員を増員して乗り切る
    • 低迷期は社員を解雇し、規模を縮小して運営

 社員の金銭解雇が認められている諸外国の企業は「業績に応じて従業員数を変化させる」ことが可能です。しかし、日本で活動する企業にはその選択肢が認められておらず、“しわ寄せ” が期間従業員(≒派遣)に行っているにすぎないことなのです。

 

2:解雇不可能な従業員を多数抱えて身動きが取れなくなるような “愚かな経営判断” をする企業は生き残れない

 「解雇もできず、減給もできない従業員」を多く抱え込むことを企業が敬遠することは当然です。

 市場のニーズが変化すれば、企業もそれに合わせて変化しなければなりません。その際、企業が求める “新しい仕事” ができない従業員は『不良債権』となる訳ですが、この『不良債権』と化した従業員が正社員なら企業は解雇できないのです。

 新卒や中途で入社した業界未経験の社員より能力が低くても、解雇はされないのです。このリスクは低いものではありませんし、正社員が過剰に守られている現状にメスが入らないのですから、期間従業員が『人員調整弁』という役割を押し付けられる結果となるのです。

画像:労働契約法における「5年ルール」の理想と現実

 朝日新聞から名指しされた自動車メーカーは期間従業員に対し、「4年契約」を提示していることでしょう。そして、契約が満了した半年後以降に「新しい4年契約」を提示するという形態を採っているはずです。

 『コストパフォーマンスの悪い正社員』が守られている現状では期間従業員の雇用環境が改善することはないのです。組合活動に熱心な正社員もいる訳ですから、どこにメスを入れなければならないかは容易に理解できると思われます。

 

 最も、“ポンコツ正社員” は『連合』などの組合活動に熱心であり、すでに保身に走っています。彼らの立場を守るために活動しているのが立憲民主党や日本共産党なのです。

 期間従業員を哀れむのであれば、過剰に守られている能力の低い正社員を金銭解雇できるよう促すことが朝日新聞の役目と言えるのではないでしょうか。