ダルビッシュが新天地のカブスで苦しんでいる理由は「配球パターンが変わった」という点が大きいのでは?

 2018年シーズンからシカゴ・カブスでプレーをするダルビッシュ投手が「結果を出せない」という状況に陥っています。

 4月28日のブリュワーズ戦は6回1失点(自責点0)と好投しましたが、それまでの4試合では防御率 6.86 と不本意な成績となっています。MLB.com でも記事になっていますので、記事の内容をもう少し掘り下げることにしましょう。

 

マイク・ペトリエッロ記者の執筆記事

 スタットキャストのデータによる分析記事を書くマイク・ペトリエッロ(Mike Petriello)記者が MLB.com で、調子の上がらないダルビッシュ投手に見られた「データ上の変化」として、次の3点を指摘しています。

  • 奪三振率の低下(昨季:27.3%、今季:22.8%)
  • 与四球率の上昇(昨季:8%未満、今季:12%)
  • ボール球を追わせる率の低下(昨季:32%、今季:23%)

 奪三振率が下がれば、相対的に与四球率は上がります。「ボール球を正確に見極める」ということを徹底すれば、奪三振率は下がるのですから、昨シーズンとは “何か” が違っていることは間違いないと言えるでしょう。

 

スライダーに “異変” が生じている

 ダルビッシュ投手の必殺球はスライダーです。被打率が最も低い球種であり、ダルビッシュの生命線とも言えるボールに異常が生じているのです。

表:ダルビッシュのスライダー投球数(レギュラーシーズン)
対・左打者 対・右打者
'17 '18 '17 '18
19
(19.6%)
13
(28.3%)
ストライク 14
(13.5%)
8
(16.0%)
17
(17.5%)
2
(4.3%)
空振り 19
(18.3%)
10
(20.0%)
20
(20.6%)
7
(15.2%)
ファール 15
(14.4%)
7
(14.0%)
24
(24.7%)
16
(34.8%)
ボール 42
(40.4%)
19
(38.0%)
4
(4.1%)
5
(10.9%)
安打 2
(1.9%)
2
(4.0%)
13
(13.4%)
3
(6.5%)
インプレー 12
(11.5%)
4
(8.0%)

 上表は「昨季(2017年)ドジャースに在籍していた際、レギュラーシーズンでスライダーを投じた結果」と「今季(2018年)カブスで登板4試合目までにスライダーを投じた結果」です。

 対・右打者は “誤差の範囲内” なのですが、対・左打者では空振りが取れなった上、被安打の割合が高くなっています。これが不調の原因になっている可能性が高いと言えるでしょう。

 

対・右打者において、スライダーの威力に変化は見られず

 MLB.com ではスタットキャストで収集されたデータを特定の条件で抜き出すことが可能です。ます、ダルビッシュ投手が右打者にスライダーを投じた際の結果を確認することにしましょう。

画像:ダルビッシュのスライダー vs 右打者

 昨季と今季で大きな違いはありません。右打者の外角低めが軸になっており、ボールゾーンでも空振りを奪っています。

 右打者に対するダルビッシュ投手の攻め方は大きく変わっていないのですが、大きく変わっているのは左打者に対する攻めです。

 

対・左打者に対する「スライダーの使い方」が大きく変化

 左打者に対するダルビッシュ投手のスライダーの使い方は昨シーズンと比較すると、大きく変化しています。

画像:ダルビッシュのスライダー vs 左打者

 昨シーズンは「左打者の膝下」が中心だったのが、今シーズンはスライダーを “バックドア” で使う場面が目立つようになっているのです。特に、2ストライクに追い込んだ後のスライダーの使い方で顕著に現れています。

画像:ダルビッシュのスライダー vs 左打者(2ストライク後)

 ボールゾーンでも空振りが取れていた “左打者のインロー” にスライダーを投げていないのです。ペトリエッロ記者が指摘した3点が起きるのは当然の結果です。

  • 奪三振率の低下
  • 与四球率の上昇
  • ボール球を追わせる率の低下

 したがって、知りたいのは「ダルビッシュ投手がなぜ(空振りが見込める)左打者のインローにスライダーを投げない理由」と言えるでしょう。

 

「投げない」のか、「投げれない」のか

 ダルビッシュ投手が左打者のインロー(=内角低め)にスライダーを「投げない」のか、「投げれない」のかで復調へのプロセスが大きく変わるでしょう。

 配球的な理由で「投げない」のであれば、配球パターンを変えることが有効策です。“バックドア” (=外角へのスライダー)がボール球になって効果を発揮していないのですから、昨シーズンまでの配球パターンに戻すべきなのです。

 ちなみに、イップスなどが理由で「投げれない」状態に陥っている可能性は極めて低いと言えるでしょう。なぜなら、28日のブリュワーズ戦では左打者のインローにスライダーを投げきっているからです。

 取材をするにしても、“情報戦” の意味が強いため、ダルビッシュ選手は配球面についてのコメントはしないと予想されます。ただ、「左打者のインローにスライダーを投じるのか」という点で投球内容が激変しているだけに配球を見守る価値はあると言えるのではないでしょうか。