サンウルブズの除外問題、アマチュア気質の抜けない日本ラグビー界がスポンサーを集められないのは当然の結果である
雑誌 Number のウェブサイトで近藤篤氏が「サンウルブズがスーパーラグビーから除外」となった件を嘆いています。
除外となった理由は「『サンウルブズ』がスポンサーに魅力的と判断されなかった」という点が大きいと言えるでしょう。ラグビー界が大きな投資を呼べる環境を持ってない現状ですから、結果は止むを得ないものなのです。
日本ラグビー界はなんとかしてサンウルブズというこの貴重なクラブを守ってあげられなかったのだろうか。国内最高峰のリーグであるトップリーグに目を向ければ、そこには超のつく一流企業名が並ぶ。トヨタ、パナソニック、サントリー、ヤマハ、NTT、キヤノン、リコー、クボタ、東芝……これだけの資本が集まっている世界で、10億円という金額を集めることすらできないのだろうか。
あるいは、少しだけ辛辣な表現を許してもらえるなら、彼らにはもともとサンウルブズを守る気などなかったのだろうか。
近藤氏は「スーパーラグビーに参戦し続けるための拠出金10億円は集められるはず」との立場を採っていますが、その認識は甘すぎると言わざるを得ません。この甘い認識だったから、除外という結果になったのでしょう。
「10億円のスポンサー料」を「10億円分の対価」で返すのでは不十分
まず、スポーツビジネスで必要なのは「スポンサー料と同額の対価では不十分」という認識です。これは Number で酒井浩之氏が語っている部分が該当します。
「1億円(スポンサー料)をいただくとは、どういうことか。いかに(マドリーと)お付き合いしてよかったと言わせるか。これらのことを徹底的に考えているんです」
例えば、1年間に3億円を払う場合、費用対効果はどれくらいか。スポンサーがそこに強い関心を寄せるのは当然だろう。関連商品の収益が10%程度なら、少なくとも30億円の売り上げは欲しい。
つまり、クラブ(マドリー)側は3億円ではなく、30億円分のリターンにつながるモノは何なのかを考えるという。資金提供を受けて終わり、ではないわけだ。
要するに、スポンサーとなる企業が要求する費用対効果を満たすことが重要であり、大前提なのです。それができれば、スポンサーに名乗りを上げてくれる企業は存在します。逆にできなければ、スポンサー探しに苦労することになるのです。
したがって、サンウルブズが10億円のスポンサー料を必要としているなら、サンウルブズは100億円に近いリターンをスポンサーに提供しなければなりません。そうしたシビアな計算をできる人材がいなければ、経営が行き詰まるのは当然と言えるでしょう。
『ラグビー日本代表』ではなく、『サンウルブズ』のスポンサーを務める理由は存在するのか?
次に、ラグビー界はスポンサーとなる資金力を持った大企業の住み分けができているという問題点があります。
- トップリーグ:
- 社会人チームで構成される日本国内のラグビーリーグ
- 大企業は「社員の福利厚生」の名目で参戦
→ 非課税の対象 - 企業名がスポーツニュースに出ることで宣伝にもなる
- ラグビー日本代表:
- 日本人選手で構成される代表チーム
- 大正製薬(= リポビタンD)がメインスポンサー
- サンウルブズ:
- 日本に拠点を置くスーパーラグビーに参加するチーム
- トップリーグに所属する選手による連合チーム
サンウルブズの設立目的は「2019年のラグビーW杯に向けて日本代表を強化すること」と言えるでしょう。日本代表選手を主体にしたチームとして産声を上げたのですが、スポンサーにとっての魅力が見えにくいチームという問題がありました。
トップリーグに参戦するラグビーチームを持つ企業はサンウルブズを支援するメリットはありません。「社会人チームの予算 = 宣伝広告費」という位置付けであるため、費用対効果が悪化してしまうからです。
また、『日本代表』よりも『サンウルブズ』のスポンサーを務める理由が説明できることも条件になります。これはかなり難しいと言わざるを得ないでしょう。
「スーパーラグビーではオーストラリア籍やニュージーランド籍のチームに日本人選手が加入することは可能」という現実
「日本人選手の強化」という点でサンウルブズが果たした役割が大きいことは否定できません。ただ、スーパーラグビーは全チームが「選抜された選手で構成」されていますので、オーストラリアやニュージーランドのチームに日本人選手が所属することは可能なのです。
実際、田中史朗選手はサンウルブズが発足する前からハイランダーズ(ニュージーランド籍)に所属し、活躍しています。
「世界と戦う」が目的なら、それは『代表チーム』の役割です。「世界レベルを肌で体感する」が目的なら、「トップリーグに外国人選手を招聘する」や「田中選手のように海外のチームで武者修行する」ことで対処は可能です。
つまり、「サンウルブズでなければできないこと」が明確に示せていないため、サンウルブズを守る必要性を見出すことが困難になっているのです。
近藤氏が名を出した一流企業は「トップリーグのレベルをスーパーラグビーに近づけることが日本ラグビー界に対する最大の貢献」と主張できます。“存在意義” をアピールすることが困難なサンウルブズのクラブ経営が行き詰まるのは止むを得ない結末と言えるのではないでしょうか。