WeWork が「IPO 計画の撤回」を発表、多額の出資を行っているソフトバンクに巨額損失の現実味

 AFP 通信によりますと、シェアオフィス事業を手がける『WeWork』が「新規株式公開(= IPO)計画を撤回する」と発表したとのことです。

 企業の事業計画が予想どおりに進まないことは珍しいことではありませんが、ソフトバンクが累計で約1兆円を投入していたことで注目度はあると言えるでしょう。なぜなら、巨額損失を計上する可能性が現実味を帯びているからです。

 

 自己取引疑惑などをめぐり最高経営責任者(CEO)が先週交代した米シェアオフィス大手ウィーワーク(WeWork)は9月30日、新規株式公開(IPO)計画の撤回を発表した。

 (中略)

 ウィーワークは24日に共同設立者アダム・ニューマン(Adam Neumann)氏が辞任し、最高財務責任者(CFO)のミンソン氏と副会長のガニングハム氏が共同CEOに就任するトップ交代劇が起きたばかり。事情に詳しい筋によると、同社は支出抑制や人員削減計画、またニューマンCEO時代に取得した社用ジェット機などをめぐり、米ウォール街(Wall Street)の投資家らから圧力をかけられていた。

 ニューマン氏は個人資産とウィーワークの間で自己取引を行ったとの疑惑が取り沙汰されていた他、薬物使用などの行動が問題視され、先週辞任を発表した。

 

WeWork の企業価値は過大評価されていた

 WeWork の企業価値を同業他社である IWG と比較すると、「過大評価されている」と言える状況となってします。

WeWork IWG
(リージャスの親会社)
総面積 418万㎡ 465万㎡
会員数 50万人 250万人
拠点 29ヵ国111都市
528地点
120ヵ国1000都市
3000地点超
売上高 18億ドル(2018) 34億ドル(2018)
損益 -19億ドル(2018) 5億ドル(2018)
評価額 470億ドル(未上場) 37億ドル(上場済)

 recode が掲載している比較表を見ますと、WeWork の評価額は奇妙としか言いようがありません。会員数・売上高・収益でリージャイスに劣っているにも関わらず、評価額が10倍になっているからです。

 これは企業価値が正しく評価されていない可能性があると言えるでしょう。

 

“ユニコーン企業” への投資で巨額リターンを狙ったソフトバンク

 ソフトバンクが WeWork に投資した理由は「上場が近いユニコーン企業」だからでしょう。ユニコーン企業とは以下の4条件を満たす企業です。

  1. 創業10年以内
  2. 評価額10億ドル以上
  3. 未上場
  4. テクノロジー企業

 WeWork はユニコーン企業の条件を満たしますが、企業価値(= 評価額)は2019年1月時点で「470億ドル」と高額でした。この数値は巨額出資をしているソフトバンクや WeWork が主張しているだけで疑念の声があったことは事実です。

 これらの疑念が現実となったのは「創業者であるニューマン前 CEO に自己取引疑惑」など WeWork の資産を “食い物” にしていたガバナンス問題が浮上すると評価額が急落する事態を招きました。

 すでに黒字化を達成しているリージャスが37億ドルの評価額ですから、WeWork の評価額が100億ドルを超えることはないでしょう。だから、「評価額は最低で100億ドル」とした IPO も頓挫し、上場計画が撤回される運びとなりました。

 この状況は IPO による巨額リターンを狙ったソフトバンクにとっては大きな誤算と言わざるを得ないでしょう。

 

創業者が組織を私物化していたことによる負債をどれだけ削減できるかが鍵

 ソフトバンクは累計で約1兆円を WeWork に投入しているため、IPO 時の上場価格が重要になります。企業価値が470億ドル(2019年1月時点)であれば、ソフトバンクは大きな収益を手にしていたことでしょう。

 しかし、現在の企業価値では大きな損失が出ると予想されます。

 WeWork の企業価値が100億ドル強で IPO がされた場合、ソフトバンクの含み損は4000億円を超えても不思議ではありません。そのため、損失分を少なくするために WeWork の企業価値をどれだけ高められるかが鍵になります。

 創業者のニューマン前 CEO が社用機を私物化するなど、ガバナンス上の問題が浮上しています。WeWork に商標を売却したり、オフィスを高額で貸し付けるなど資金を自らの懐に引っ張っており、こうした “負債” を上手く解消することが新 CEO の最大の仕事です。

 「含み損」を解消できるだけの経営者をトップに据えることができるかでソフトバンクのビジョンファンドの先行きに大きな影響を与えることになると言えるのではないでしょうか。