ソフトバンク、スプリントをTモバイルに経営の主導権を譲る形での統合に泣く泣く合意

 ソフトバンク傘下のアメリカ携帯会社『スプリント』が『TモバイルUS』と合併することに合意したと日経新聞が報じています。

 ソフトバンクは「自らが経営権を持つ形での合併」を目指していましたが、「経営権を譲渡する形での合併」に合意しました。規制当局からの承認を待つ必要はありますが、前回よりは承認される見込みはあるため、今後の進展を見守る必要があると言えるでしょう。

 

 米携帯4位のスプリントと同3位のTモバイルUSは29日(米国時間)、2019年をめどに合併することで合意したと発表した。合併会社はTモバイルの親会社ドイツテレコムの連結対象となり、ソフトバンクの持ち分法適用会社になる。

 (中略)

 Tモバイルのジョン・レジャー最高経営責任者(CEO)がCEOを務める。合併は株式交換によって行い、合併後の持ち株比率はドイツテレコムが41.7%、ソフトバンクが27.4%。

 今回の合意により、スプリント社はソフトバンクの『子会社』から『関連会社』になることが決定しました。

 「連結決算の対象だった企業」が「資産投資先の企業」に変わることになります。ソフトバンクはスプリントを通して、“自らが経営権を持つ形での勢力拡大” を図ってきただけに大きな転換点になると言えるでしょう。

 

ソフトバンクのスプリント投資は失敗

 ソフトバンクの「スプリント買収」という “チャレンジ” は評価されることでしょう。しかし、チャレンジによる “結果” を手にすることはできませんでした。

2013年 ソフトバンクが216億ドル(当時のレートで1兆8000億円)でスプリントを買収
2018年 ソフトバンクが265億ドル(現在のレートで約2兆9000億円)でスプリントをTモバイルに売却すると発表
→ 当局の承認待ち

 合併が承認されると、ソフトバンクは50億ドルの売却益を手にすることになります。ただ、スプリントの経営では赤字を出し続けていましたし、借り入れ金利や設備投資を考慮すると、利益はほとんど残らないと言えるでしょう。

 ドルベースではなく、円ベースでは1兆円規模になりますが、これは「アベノミクスによる恩恵」なのです。企業経営という点においては「成功」と評価することは難しいはずです。

 

合併が承認されないと、ソフトバンクにとっては “厳しい事態” が続くことになる

 ソフトバンクはTモバイルに対し、「ソフトバンクが経営主導権を持つ形での買収」を提案していました。

 ですが、ソフトバンク傘下のスプリントを抜き、業界3位になったTモバイルが買収提案に応じるメリットは何もありません。そのため、昨年10月に合併交渉が頓挫し、ソフトバンクは決断を強いられていた状況だったのです。

  • ソフトバンク:経営規模による拡大戦略を掲げる
  • Tモバイル:経営プランによる実績で規模を拡大

 ソフトバンクには「経営規模があってこそ、競争のスタートラインに立てる」という企業価値観があるのでしょう。そのため、企業買収に積極的に動いていると考えられます。

 ただ、寡占状態にある業界において同業事業者を買収にすることは当局が承認を渋る可能性があります。もし、今回のTモバイルが主導権を持った買収も規制当局が認めないとなると、ソフトバンクは “損切り” ができなくなるため、一層厳しい環境に置かれることになるでしょう。

 

買収や合併は「実施後に結果を残せるか」にかかっている

 買収や合併において重要となるのは「実施した後に期待された結果を残せるか」です。ステップアップを目指して行動を起こした訳ですから、結果が出たかは非常に重要と言えるでしょう。

 その点において、ソフトバンクはつまづきました。

 「スプリント買収から間髪入れずにTモバイルを買収し、3社でシェアを争う」というプランを描くも、『スプリント買収』の段階で “息切れ状態” になっていたからです。その上、Tモバイルには「経営陣の実力差」をまざまざと見せつけられ、撤退戦に踏み切るべきと言える状況だったのです。

 ただ、撤退戦に成功するかは「規制当局が今回の合併を承認するか」次第です。合併が認められない可能性も残されており、その場合は “新たな撤退戦” を計画するか、“玉砕戦” を挑むかの二者択一となります。

 

 『独創的なアイデアに基づく経営戦略』をソフトバンクが立案できるなら、可能性や選択肢は広がっていたでしょう。ですが、『買収のリスクを取れるオーナー』が主導するだけでは『独創的なアイデアに基づく経営戦略』を出せる企業に太刀打ちすることは難しくなるのです。

 スプリントでの失敗は「ソフトバンクの “経営上の弱み” が現れた案件になった」と言えるのではないでしょうか。