楽天が携帯通信事業への参入計画を発表、「総務省の出方」が鍵となるだろう
NHK によりますと、格安スマホ事業者として携帯電話業界に参入している楽天が “第4の携帯電話会社” として本格参入するために総務省に電波の割り当てを申請する方針を決めたとのことです。
過去には『イー・アクセス』が参入を目指すも、ソフトバンクに買収されたという経緯もありました。そのため、楽天がどのような経営戦略を持って参入するかが大きな注目点と言えるでしょう。
楽天は、14日開いた取締役会で新たに携帯電話会社を設立し、来年1月にも総務省に電波の割り当てを申請する方針を決めました。
総務省は警察や自治体などに割り当てている電波を民間向けに順次、開放していて、楽天の申請が認められればNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクがせめぎ合う市場に“第4の携帯電話会社”として新たに参入することになります。
2019年中にサービスを開始し、2025年までをめどに最大で6000億円を投じて全国に携帯電話の基地局などを整備していく方針です。
総務省が楽天からの「電波の割り当て申請」を却下することはないでしょう。“悪ふざけ” での申請など内容に問題が確認されなければ、申請を受け付けるものと考えられるからです。
したがって、焦点は「どのように電波を割り当てるのか」です。過去に総務省が『電波行政』で失敗をしているだけにどう動くのかが大きな注目点になっているからです。
1:不公平な状況を放置してきた総務省
携帯電話通信に使う電波ですが、これは総務省が社会主義的に割り当てを行ってきました。そのため、「ドコモよりイー・アクセスの方が経営基盤が安定しているため、電波を割り当てる」などという “奇妙な裁定” が行われた過去も存在します。
社会主義的に専有周波数の割り当てが行われ続けていたのですが、2012年にソフトバンクがイー・アクセスを買収したことで「公平性」が損なわれる事態が生じてしまいます。
林秀弥・名古屋大学教授が規制改革推進会議の WG に提出した資料(PDF)に示されたデータは上図なのですが、携帯電話会社3社(ドコモ、au、ソフトバンク)が持つ周波数はそれぞれ 200MHz。しかし、契約者には大きな開きがあり、ドコモとソフトバンクでは “混雑度” が倍近くあるという事態が生じたのです。
オークションを導入していれば、こうした不公平さが残る事態にはならなかったでしょう。
「イー・アクセスが用意して資本で落札した帯域」ではなく、「総務省がイー・アクセスに割り当てた帯域」をソフトバンクが買収したのです。歪められていた電波行政がどれだけ正されるかが今後の注目点になります。
2:政府が「電波オークション」を検討する中、総務省はどう動くのか
安倍政権は周波数が “つまみ食い” 状態になっている現状を整理し、民間向けに解放していく方針を示しています。その際、利用希望者を『オークション』で決定するという青写真を描いているのでしょう。
『電波オークション』は多くの国で用いられている方式であり、国の収入にもなります。また、ビジネス面での収益から算出された落札価格で決定するため、フェアな環境で勝負が行われると言えるでしょう。
しかし、総務省にとっては迷惑な話です。
これまでは「総務省のさじ加減」で決めることができていた電波の恣意的な割り当てができなくなるのです。割り当てから得ていた『権力』が失われるのですから、難色を示すことが予想されます。
3:電波が割り当てられなければ、携帯電話会社の経営はできない
携帯通信ビジネスはアメリカで『Tモバイル』が大きく飛躍したように、経営次第で業績を上向かせることが可能であることは示されています。『Tモバイル』が打ち出したプランの中から日本市場でも通用するものを選択し、展開すれば勝機はあると言えるでしょう。
ですが、まずは電波を確保しなければ話になりません。
楽天にとってのベストシナリオは「総務省が楽天に電波を割り当て、電波オークションがその後に導入される」というものでしょう。電波オークションを導入したくない総務省と表向きは一時的にタッグを組み、経営が軌道に乗った段階でオークション導入に前向きの姿勢をより鮮明に示すのです。
その際、「ビジネスに必要な帯域幅を確保することが重要な課題である。取得方法がオークションなら、それに向けた準備をするつもりだ」と上手く煙に巻いておくことがポイントです。“踏み絵” を突きつけられるのは『参入を発表した楽天』ではなく、『電波利権を持つ総務省』になることを念頭に置き、上手く立ち回れるかが鍵になると思われます。
楽天が空気を読まずに携帯電話業界に大きな風穴を開けることができるのかが注目と言えるのではないでしょうか。