12月6日の午後に大規模障害を起こしたソフトバンクに行政指導を出せないなら、総務省の存在価値が問われるべき事案だ

 12月6日(木)の午後に発生したソフトバンクの大規模通信障害は多くの利用者が不便を被っていたことがニュースなどで報じられました。

 この件に対し、通信事業者を管轄する総務省の石田大臣が「行政指導を含めた措置を検討していく考えを示した」と NHK が伝えています。

 今回の件で影響の規模を考えると、行政指導が見送られるようなことがあれば、総務省の存在価値が問われる事態だと言わざるを得ないでしょう。

 

 石田総務大臣は7日の記者会見で「日中の忙しい時間帯に全国の多くの利用者に不便をかけたわけで、極めて遺憾だ。今回は電気通信事業法上の重大な事故と考えられ、利用者への十分な説明とともに原因究明と再発防止策の報告を求めている」と述べました。

 そのうえで、ソフトバンクではことし2月にも通信障害が起きたことを指摘し「国民生活に不可欠なサービスを担う事業者として事故を真摯(しんし)に受け止める必要がある」と述べ、今後、行政指導を含めた措置を検討していく考えを示しました。

 もし、ソフトバンクに行政指導をしないのであれば、それは「忖度」と言わざるを得ません。なぜなら、過去に同様のトラブルを起こした KDDI には指導が行われているからです。

 

KDDI が2013年に起こした MME(Mobility Management Entity)に起因する同様の通信障害

 まず、KDDI が発表(PDF)している『au 携帯電話ネットワークの全体構成』を確認することにしましょう。

画像:au の携帯電話ネットワーク

 KDDI で発生した通信障害は MME に起因するものでした。資料内で MME は「LTE 基地局制御装置」と紹介され、『LTE 基地局』と『SGW(Serving Gate Way)』間の通信を制御することが主な役割です。

 KDDI の場合は「MME のバグ」が原因で輻輳(= アクセスの集中)が発生、過負荷が起きたことで通信系統がダウンする事態が発生しました。この問題に対し、KDDI は以下の対策を講じることで信頼回復を図っています。

画像:MMEに起因する通信障害に対するKDDIの対応

 対策は「MME の分散」と「設備増設」でした。これは冗長性を確保することで、ソフトウェア上のバグによる輻輳が発生しても、ユーザーの通信に影響が発生しない『設計思想』が反映された効果的な対策と言えるでしょう。(ただし、その翌月には総務省から行政指導が出されている)

 

ソフトバンクは今回の通信障害を「エリクソン社製 vMME のバグによるもの」と発表

 ソフトバンクは通信障害の発生原因を「エリクソン社製のソフトウェアに異常が発生したため」と発表しています。

 2018年12月6日(木)午後1時39分ごろ、全国のお客さまをカバーする、東京センターおよび大阪センターに配置してある、エリクソン社製パケット交換機全台数で、同社ソフトウエアに異常が発生しました。

 なお、同ソフトウエアは9カ月前から運用しており、同ソフトウエアによる異常は、エリクソン社製の通信設備を使用する海外(11カ国)の通信事業者においても、ほぼ同じ時刻に同様に発生していると、エリクソン社から報告を受けています。

 エリクソン社の製品は世界中の通信事業者(= ドコモやau)でも導入されていますが、一部の通信事業者でのみ発生したことは注視する必要があるでしょう。ここで浮かび上がるのは vMME の存在です。

 vMME は virtual Mobility Management Entity の略で、「クラウド上で機能する LTE 基地局制御装置」と言えます。

 ソフトバンクは大規模 vMME の展開に成功した最初の事業者になっています。これは2016年2月のことですが、導入の大きな理由は「インフラ投資コストの削減」です。LTE 通信に必要な帯域の確保が “おざなり” になっていた可能性があるのですから、問題と言わざるを得ないでしょう。

 

最低でも「設備の設計・設置」および「ソフトウェアに不具合がないこと」は要求されるだろう

 総務省が KDDI に対して行った行政指導の主な内容は以下のものです。

  • 設備の冗長機能に不具合が生じないこと
  • 設備の設計・設置に誤りがないこと
  • ソフトウェアに不具合がないこと
  • 試験項目・試験環境を充実(過負荷試験の徹底等)させること

 要するに、「不具合が起きないように全体最適化を図り、そのための投資を行うことで万が一の事態に備えておくこと」が要求されています。

 要求内容としては妥当なものであり、これらの要求はソフトバンクにも行政指導という形で下されるべきでしょう。なぜなら、「ソフトウェアの不具合」で全国的な通信障害が発生しましたし、障害発生時における短期収束策や拡大防止策が講じられていたとは言えないからです。

 KDDI は他社の責任については言及しませんでしたが、ソフトバンクは「エリクソン社製品の問題」と責任転嫁に走っている節があります。インフラ事業者としてあるまじき行為であり、厳しい批判を向ける必要があると言えるのではないでしょうか。