ソフトバンクがTモバイルを合併する形の買収は理解が得られないだろう
日経新聞によりますと、ソフトバンクはグループ傘下のスプリントがTモバイルUSの経営統合(買収)協議を打ち切る方針であるとのことです。
孫正義氏の悲願を断念する形になりますが、止むを得ないと言えるでしょう。なぜなら、業界4位の企業が3位の企業を経営統合し、経営権を取得することの合理的な理由が見当たらないからです。
ソフトバンクグループは30日、傘下で米携帯電話4位のスプリントと同3位のTモバイルUSの経営統合に向けた協議を打ち切る方針を固めた。31日にもTモバイル親会社の独ドイツテレコムに申し入れる見通し。スプリントとTモバイルの統合した後の新会社の筆頭株主となることを互いに主張し続けたため、交渉の最終局面で折り合いがつかなかった。米携帯電話市場を巡るソフトバンクの再編構想は振り出しに戻る。
ソフトバンクから「スプリント社がTモバイルを買収する」とのプランが語られたのはスプリントがアメリカの携帯通信業界で3位だった頃のことです。
当時であれば、3位のスプリントが4位のTモバイルを買収し、スプリントが経営権を手にすることは自然な流れでした。しかし、買収資金に目処がつかず、また合併許可も得られなかったため、断念する結果となりました。
ところが、経営統合の話が流れ始めた頃から状況が激変してしまったのです。
1:Tモバイルが業界3位に浮上
松村太郎氏が東洋経済で言及していますが、Tモバイルは契約者数を2012年の数値から倍増させ、スプリントを抜き去っているのです。その要因は “アンキャリア” と呼ばれる従来キャリアとは一線を画す経営方針を打ち出したことです。
- 解約手数料(2年縛り)廃止
- 端末のリース契約で、年に3回最新の端末に乗り換え可
- 通話・データのローミング無料
- 音楽・ビデオストリーミング無料
- データ通信量の翌月繰り越し
上述は施策の一部ですが、データ通信で容量を消費するストリーミングを無料にしたことで若者を中心に新規顧客の開拓に成功したと言えるでしょう。
“しがらみ” を取り払ったことで、業界4位から業界3位へと躍進したのです。「この企業を買収し、自分たちが経営権を手にする」というソフトバンクの青写真は頓挫したと言えるはずです。
2:会社を成長させた実績のある経営者を追い出す理由に株主や従業員が納得するのか
ソフトバンクの合併プランが頓挫した理由は「業績を伸ばしたTモバイルの経営陣を追い出すことが組織の利益になるのか」という点に集約されるでしょう。
スプリントがTモバイルの軍門に下るなら、株主・従業員は納得するでしょう。実績を残した優秀な経営陣の下、好調な業績による恩恵を受けられると考えられるからです。
しかし、スプリントが主導権を握ることは理解されにくいと思われます。AT&T やベライゾンという業界の有力プレーヤーに太刀打ちできず、独自戦略を打ち出したTモバイルにも抜かされたからです。
成長し続けるTモバイルを傘下に収めることは以前よりも厳しくなっています。「有能な経営者がいるのはTモバイル」という認識が根付いており、買収費用も段違いに高くなることでしょう。
スプリントの経営状況を上向かせることができる有能なトップを見つけられなければ、損切りすべきと言えるでしょう。孫正義氏が “損切り” をするのか、テコ入れ策を持っているのかが明らかになる時期と言えるのではないでしょうか。