マラソン日本記録保持者・大迫傑が「選手が賞金を得られて世界との差を縮めるマラソン大会」の構想を発表、大会運営能力が問われる形に

 マラソンなどの現日本記録保持者である大迫傑選手が自身のツイッターアカウントで「新規大会の創設」を宣言しています。全文は日刊スポーツなどのスポーツ紙も報じていますが、競技で生計を立てる “プロ選手” が賞金を得られない現状のマラソン大会に不満を抱えていることは事実でしょう。

 しかし、マラソン大会が「赤字」であることは否定できません。主催者が儲かるなら、選手に「出走費」を支払うことでトップアスリートを招待する大会が行われているはずだからです。したがって、大迫選手が大会運営側に回るなら、運営能力が相当問われることになるでしょう。

 

大迫傑選手がツイートした現行のマラソン大会への不満点や疑問点

 大迫選手がツイートした現行のマラソン大会に対する不満や疑問点を整理すると以下のようになります。

  • MGC (マラソン・グランド・チャンピオンシップ)に賞金が出ないことはおかしい
  • 注目度が高く、多額のお金が動いた大会はずなのに選手への配分がない
  • 交通整理や人件費で一杯一杯なら、運営に問題がある
  • 選手は「名誉」ではなく「生活」のために走っている

 「プロとして活動するアスリートの主張」として理解できる内容と言えるでしょう。大迫選手は「速さを求める大会」を作ることで世界との差を縮め、選手に賞金という形で還元するために「お金の流れを知ることが重要」と言及しています。

 ただ、日本で公道を利用することは簡単ではありません。この部分を甘く見ていると、選手に賞金という形で還元することは絵に描いた餅と化してしまうからです。

 

公道を利用する競技は準備コストが重くのりかかる

 では、マラソン大会の主催した際の主な収支を確認することにしましょう。

  • 収入
    1. 入場料: 陸上競技場の観客
    2. 放映権料: テレビ局やネット事業者
    3. スポンサー料
  • 支出
    • 陸上競技場の使用料(発着点として利用する場合)
    • 交通整理などの人件費
    • 大会運営時の様々なリスクを想定した安全対策
    • 周辺住民への大会開催の周知徹底(= 広告・宣伝)
    • マラソンコースに該当する道路の使用許可取得と生活道路・抜け道の確保

 おそらく、大迫選手は「大会開催の許可を得るまでのコスト」が膨大になっていることに見落としているのでしょう。中でも『支出』の項目で示した下の3項目は選手目線では気にすることすらないからです。

 ただ、それらの3項目は圧縮することが難しく、大会主催者にとっては頭の痛い問題となっているのです。

 道路を封鎖する以上、地元住民から「生活道路が使えずに損害を被った」と訴えられると敗訴が現実味を帯びます。大会主催者に賠償責任が科されるリスクがあるのですから、大会が準備されている段階でコストが多く費やされていることは見落とすべきではないでしょう。

 

選手の理想を現実化させることができる敏腕ディレクターが必要不可欠

 大迫選手が希望する「賞金が得られて選手が世界との差を縮める場とするマラソン大会」を実現しようとするなら、主催者側に “敏腕ディレクター” がいることが絶対条件です。

 ただ、仕事ができる人物を「無給」で確保することは非現実的であり、能力が高い人物ほど「高給取り(= 高コスト)」というジレンマに陥ることになります。したがって、この部分での折り合いをどうするのかが分かれ目と言えるでしょう。

 立ち上げたマラソン大会を長期的に運用するなら、大会主催者の基盤が整っていることが重要です。

 「スポンサーとの交渉」や「関係当局との調整」は収益面に大きな影響を与えるため、この部分は辣腕として定評のあるプロフェッショナルに任せたいところです。この部分は実質的に通年で動いている必要がありますので、それだけ人件費が必要となることを認識しておく必要があります。

 

 大会の存在を知らせる宣伝媒体を確保するためには既存マスコミをスポンサーに付けることで「周辺住民への周知徹底に要する費用」の圧縮を狙うなど様々な工夫をすることが重要になるでしょう。

 「スポーツニュース」として価値を創出し、宣伝効果を生み出さなければ多額のスポンサー料を引き出すことはできません。それを実現するためのアイデアを大迫傑選手が持っているのかが注目点と言えるのではないでしょうか。