本州から地理的に遠く離れた沖縄で豚コレラが発生、検疫体制の難しさが浮き彫りとなる

 沖縄本島で豚コレラ(CSF, 豚熱)の感染が確認され、県全体の飼育数の 3.2% が殺処分になったと琉球新報が報じています。

 感染経路の特定は「DNA 検査の結果」を待つ必要があるでしょう。これにより、『本州』と『大陸』のどちらから感染源になった可能性が高いかを判断できるようになるからです。

 いずれの場合にしても、「検疫体制の見直し」と「養豚家への啓蒙」が対策となるでしょう。『反基地運動』にばかり注力していたことの “ツケ” を払う事態にもなり兼ねないため、県の対応も重要となるはずです。

 

 沖縄県内で豚やイノシシの感染症、豚コレラ(CSF)の感染が発生している件で、県農林水産部は11日、うるま市での発生に関連して、沖縄市内の養豚場の豚から陽性反応が出たことを明らかにした。

 (中略)

 これで豚コレラ感染に関連して殺処分される豚は6養豚場で合計6683頭となり、県全体の飼育数20万6828頭(2018年12月末現在)の3.2%に上っている。

 

通報が遅くなるなど、養豚家の初期対応が後手に回ったこと

 沖縄本島で確認された豚コレラですが、感染経路は現時点では不明です。ただ、最初に感染が確認された養豚場の対応は「良くはなかった」と言わざるを得ません。

 1つは「通報が遅れたこと」です。昨年12月20日頃から死ぬ豚が急増したものの、県への連絡が行われたのは1月6日でした。24時間体制での通報が可能だったことを考慮すると、批判の対象となるでしょう。

 ただ、専門機関でなければ「豚コレラに感染したか」を判断することはできません。解熱剤や抗生物質の投与による経過観察で回復する『豚コレラではない事例』も存在するのですから、「万が一の場合に備えて通報することによって養豚家が得られるメリット」を体制として作る価値はあるでしょう。

 もう1つは「加熱処理をしていない食品の残りを餌として与えていたこと」です。

 豚コレラ・ウイルスは加熱処理(例:有効温度は80度だと3分以上)で感染拡大を防ぐことができるため、県は「餌に食品残渣を使うなら加熱処理をするように」との指導をしていたのです。しかし、守られていませんでした。

 この養豚家の “杜撰な管理体制” が感染拡大に寄与した証拠は現時点ではありませんが、衛生管理を「なんくるないさー」で適当にされてしまうと被害が拡大する要因になってしまいます。そのため、緩い管理体制に対しては当局が是正を促す必要があると言えるでしょう。

 

「沖縄での豚コレラ発生」は寝耳に水ではあるが、県の対応が『お祈りモード』では問題

 愛知や岐阜など中京圏から中山道に沿って関東圏で発生している日本の豚コレラですが、陸続きではない沖縄で発生することを想定していた人は少なかったことでしょう。

 隣接県での発生が確率として高く、九州や四国ではなく、さらに離れた沖縄であることは驚きと言わざるを得ません。しかし、それはメディアが第一報を伝えた際の世間一般の感想であるべきです。

 対策の責任者である沖縄県は「被害拡大の制限」と「再発防止策の制定」が求められます。『ワクチン接種』についての判断を下さなければならないですし、沖縄を訪問する人々の多くが利用する那覇空港の検疫体制を見直す必要もあるはずです。

 発生をゼロにすることは不可能ですが、他の養豚場への感染拡大を限定することは現実的に可能です。

 沖縄はブランド豚である『アグー』を持っているため、杜撰な衛生管理を容認してしまうと「県の名産品」が消滅してしまう恐れがあります。種を守るために必要な対策を県がいつでも打てるように準備をしておくことが浮き彫りとなっただけに玉城知事の手腕が問われることになると言わざるを得ないでしょう。

 

観光立国を掲げるなら、国内の衛生状態を維持するための検疫体制にも相応の予算投入が不可欠

 日本は『観光立国』になることを目標として掲げ、訪日外国人旅行客数の具体的な数値目標を定めています。また、沖縄県も「観光業は県の主力産業」とアピールし、国内外から多数の旅行客を呼び込むことに力を入れている状況です。

 ここで問題となるのは旅行客がウイルスのキャリア(= 保菌者)になってしまうことです。

 旅行客自身が感染しているケースもあれば、旅行者が持ち込んだ食品などにウイルスが付着しているケースもあります。増加し続けている旅行者に対応するために検疫体制にも予算投入による拡充が必要です。そうしないと、検疫の精度が低下してしまうからです。

 衛生状態は国によって異なりますし、様々な国から旅行客が日本に来れば、旅行者自身が自覚していなくてもウイルスを運んでしまうことは起こり得ます。オリンピックで多数の訪日客があるなら、検疫体制も相応の対応を準備していることが必要不可欠です。

 旅行業に関わる人々は「旅行客が増えること」を諸手を挙げて歓迎することでしょう。しかし、交通渋滞などのオーバー・ツーリズム以外にも弊害はあるのです。行政はその点についての認識をしておく必要がありますし、「急増する旅行客」は沈静化に向けた動きをしなければなりません。

 沖縄で発生した豚コレラ問題を「突発的な事故」とするのではなく、警鐘と見なした上で必要な対策を行政が指示する必要があると言えるのではないでしょうか。