基本再生産数「R0」と実効再生産数「Rt」の関係

 緊急事態宣言を延長を巡り、実効再生産数Rがクローズアップされつつあります。専門家会議の資料で用いられる重要な数値ですが、クラスター対策班の中から意図的に混同するなどミスリードに利用している状況も発生しています。

 それを予防するために整理しておくことにしましょう。

 

Reproduction number (再生産数)のこと

 『再生産数(Reproduction number)』は「1人の患者が新たに発生させる患者数」の意味で用いられ、その頭文字である "R" で表記されています。

 ただ、患者を新たに発生させると言っても条件によって患者数が異なります。そのため、基本再生産数と実効再生産数の2つに分類されます。

  • 基本再生産数: R0
    • 1人の感染者が新たに感染させる平均人数
    • デフォルト値に該当
  • 実効再生産数: Rt
    • ある任意の時点における1人の感染者が新たに感染させる平均人数
    • 「当局の対応」や「人々の行動」による影響を受ける

 この2つの基準で混同が生じると、判断を誤る可能性は極端に高くなってしまいます。特に、クラスター対策班が混同している状況は大きな懸念事項と言わざるを得ないでしょう。

 

8割おじさんこと、西浦氏は「デフォルト値の R0 を 2.5 と定義した根拠」を示していない

 例えば、厚労省クラスター対策班の西浦博教授(北大)は「R0=2.5」と定義した上での対策を立案していますが、その根拠が示されていません。だから、その部分への批判や疑義が発生しているのです。

 R0 とは「Rt における t=0 の意味」ですから、デフォルト値(= 初期設定値)と見なす必要があります。西浦教授が 2.5 と設定した R0 ですが、日本では該当の値が適切と言える根拠はありません。

画像:日本国内における Rt の推移

 クラスター班が北海道での症例を基に「感染拡大には一定の条件を満たす場所が関係している」と最初に警鐘を鳴らしたのは3月2日のこと。「三密を回避して下さい」との具体的な指示が出たのはその1週間後の3月9日です。

 つまり、少なくとも2月中の日本国内は R0 (= 特別な対応を取ることができない状態)だったと言えるです。該当期間中の再生産数Rは「2を下回る数値」であり、西浦教授が何を根拠に「R0=2.5」と定義したのかを示すのは研究者としての責務と言えるでしょう。

 

「Rt < 1」の状況で出してしまった緊急事態宣言を継続する意義はあるのか

 別の問題としては「緊急事態宣言を出してしまったこと」が挙げられます。ただし、国民の多数派によってミスリードされた結果であることに留意が必要です。

  • 実効再生産数(Rt)をリアルタイムで正確に把握できる保証はない
  • (Rt=2.0だった)3月中旬頃に出せれば理想的だったが非現実的
    • 世間は3連休で油断中
    • 兵庫県との往来自粛要請を出した大阪府をマスコミは嘲笑
    • 欧州旅行帰りの人による流入が後に判明
  • 4月初旬から累計患者数に怯えた世論が緊急事態宣言を強く要求
  • 4月7日に緊急事態宣言が出される
    • 世論は「遅すぎる」と文句
    • しかし、宣言時点の Rt は1未満で収束に向かっている状況

 「政府の出すデータは嘘」と決め付けたマスコミが報道しているのですから、正確な情報を手にすることができる国民は多くはないでしょう。脛に傷を持つ状態である専門家会議が実効再生産数の公表に消極的ですから、(政治などが)間違った判断をするのは当たり前です。

 安倍政権は世論に押される形で緊急事態宣言を出しましたが、その時点で「Rt < 1」であり、事態は収束へと向かっています。感染者が増加から微増となり、退院者が増えて現在の患者数が減少するというプロセスに4月7日を迎える前の時点で入っていたのです。

 "Rt < 1" の状態が続いてるにも関わらず、徹底的な外出自粛を求める緊急事態宣言を延長しようとする状況は「データを無視している」としか言えません。これは明らかに無責任としか言いようがないでしょう。

 

インフル程度の脅威度だから、長期戦や共存戦略が採れる

 「長期戦です」と言われたところで、経済が止め続けるのは不可能です。

 「実効再生産数 Rt が1を下回る水準を保てるように『三密』の回避を徹底し、可能な限り経済活動を続けよう」と方針は長期戦ですが、「StayHome」や「8割減」は短期決戦で用いる戦術です。

 今冬に “第3波” が来ることを念頭に置いた準備が必要であることを考えると、短期決戦として経済そのものを疲弊させたツケは非常に大きくなると予想されます。

 そもそも、新型コロナウイルスが季節性インフルエンザと同程度の脅威だから長期戦や共存戦略の話が出るのでしょう。エボラ出血熱などの第1種感染症や指定感染症との “共存” は非現実的です。

 (季節性インフルエンザが含まれる)第5種感染症程度に格下げをし、医療機関や経済への負荷軽減をしないのであれば半年も持たないと考えられます。

 安倍首相が「季節性インフルエンザ程度の脅威と示されたデータを信用せずに経済をドン底に突き落とした総理」として歴史に名を残すシナリオも十分に考えられると言えるのではないでしょうか。