必要なのは『書き換え不可の電子決裁システム』ではなく、『変更履歴が残る決裁システム』

 財務省の国有地売却をめぐる決裁文書が書き換えられた問題で、野田聖子総務相が「電子決裁システムの利用を推進すべき」との見解を示したと NHK が報じています。

 ただ、どのような決裁システムにも “穴” は存在します。「電子決裁は書き換え不可で完璧」という思い込みは別のリスクを招くことがあるとの前提で制度設計をする必要があると言えるでしょう。

 

 財務省による決裁文書の書き換え問題をめぐり、野田総務大臣は、行政に対する国民の信頼を回復させるため、政府全体で、書き換えができない電子決裁システムの利用を推し進めるべきだという考えを示しました。

 (中略)

 「完璧にできていない省庁があると聞いているので、取り組みを推し進めていきたい」と述べ、政府全体で、書き換えができない電子決裁システムの利用を推し進めるべきだという考えを示しました。

 

1:「電子決裁システムの導入」は総務省の案件

 野田総務相が財務省での書き換え問題に対し、メディアの前で「電子決裁システムの利用推進」を述べたのには理由があります。それは『電子決裁システムの導入』が総務省の案件だからです。

 平成25年(2013年)に『世界最先端 IT 国家創造宣言』が閣議決定され、官公庁では紙決裁から電子決裁へと舵が切られることとなりました。

  • 行政サービスの向上・効率化
  • 運用コスト削減・セキュリティー強化
  • 事務処理の効率化・高度化
  • 文書の適正管理
    → 散逸防止・ルールに沿った管理が容易に
  • 災害時などでの業務継続性の確保

 上記のような理由があり、電子決裁システムの導入が本格化したという経緯があります。つまり、「公文書の書き換え・改ざんを防止することが主目的で電子決裁システムの導入が進んだのではない」という点に留意する必要があると言えるでしょう。

 

2:“完璧なシステム” を運用する人間は「完璧ではない」という現実

 『電子決裁システム』がどれだけ完璧であったとしても、運用する人間が “完璧ではない” のですから、ミスや問題は発生します。野田総務相は『書き換え不可の電子決裁システム』の導入を提案していますが、この提案は解決策として問題があると言えるでしょう。

 ミスや間違いは限りなくゼロに少ないことが理想的です。しかし、ゼロにすることは不可能です。そのため、問題が生じた初期の段階で速やかに訂正・修正処理が施されるプロセスが準備されていることが求められます。

 もし、野田総務相が提案する『書き換え不可』のシステムが導入されれば、ミスは半永久的に残ることになります。

 “減点主義” 的な人事評価が採用されていると見られる官僚機構で「ミスの訂正が許されない」ということは出世に大きな悪影響を及ぼします。政治家の収支報告書が訂正 OK なのに、官僚の決裁文書については「いかなる場合も許さない」という基準は完全なダブルスタンダードと言えるでしょう。

 無断(または独断)での修正・変更が問題なのであって、「誰が・いつ・どの文書を・どのぐらい変更したのか」が正確に把握できる決裁システムを導入しなければ『書き換え問題』に対する根本的な解決策にはならないと考えられます。

 

3:財務省での電子決裁はそれほど進んでいない

 『決裁文書の書き換え問題』で揺れる財務省ですが、電子決裁化はそれほど進んでいない状況です。総務省が平成27年(2015年)9月に発表した電子決裁の取り組み状況(PDF)に記載されている数値は下表のとおりです。

表:財務省の電子決裁率(平成26年度)
電子決裁率 H26年度・決裁実績
25年度 26年度
(下半期)
決裁数 電子版
財務省
(本省)
2.0% 11.7%
(22.7%)
427,875 50,031
国税庁 4.3% 71.8%
(90.9%)
636,890 457,070
財務省
(全体)
3.4% 47.6%
(61.8%)
1,064,765 507,101

 省全体として平成26年下半期に財務省の電子決裁率は 61.8%。この比率は他の省庁と比較すると高い方なのですが、財務省の電子決裁率を引き上げているのは国税庁が 90.9% の数字を出しているからです。

 国税庁は納税時に e-Tax の利用を呼びかけるなど、電子化に向けた動きは以前から行っています。それと比較すると、財務省(本省)では電子決裁が主流になるための過渡期と言えるでしょう。

 

 電子決裁システムを省庁の地方組織にまで導入するには多額の予算が必要となります。「そのための予算がどれだけ必要となるのか」などの議論は予算委員会で行うべき点なのですが、審議拒否をする野党やその姿勢を褒め称えるマスコミは「問題を騒ぐだけの存在」に成り下がっています。

 『実現性のある具体的な解決案』を提示すれば、野党各党は支持率を獲得することができる状況です。そうした行動を起こさず、文句を言うだけの “パフォーマンス” に終始しているだけですから、有権者から愛想を尽かされていると言えるのではないでしょうか。