朝日新聞の官邸クラブ取材班、『実質賃金』を『手取り賃金』と勘違いするレベルの賃金所得解釈を行ったデマを流す

 厚労省の統計不正問題が明るみに出たことで、野党からアベノミクスの効果を疑問視する声が出ています。そのことを紹介する記事を朝日新聞が書いたのですが、朝日新聞の官邸クラブ取材班が『実質賃金』の意味を履き違えたツイートをしています。

 このような間違った認識を放置しているから、官房長官の記者会見で事実誤認の質問も恥じることなく行うことが蔓延しているのでしょう。

 

■ 朝日新聞の官邸クラブ取材班によるツイート

 問題のツイートは以下のものです。

画像:朝日新聞官邸クラブ取材班によるツイート

 首相の言う「総雇用者所得」は、全体の景況感、野党の言う「実質賃金」は個々の景況感を示します。所得が増えてもそれ以上に物価が上がっていれば、国民の個々の生活は苦しく感じます。

 用語解説のつもりで行ったツイートなのかもしれませんが、用語の意味を間違えているのです。これは「明らかな誤報」と言わざるを得ないでしょう。

 一般人が経済指標に疎いのは止むを得ないことです。しかし、ツイートを行ったのは「正確な情報を伝達すること」を商売としている新聞記者による “取材チーム” です。

画像:朝日新聞官邸クラブ取材班

 『チーム官邸』という取材班を組み、10名強のメンバーそれぞれが “専門分野” を持つと自己紹介しているのです。経済ニュースを取り扱う上での基礎知識が不足している現状は問題視すべきと言えるでしょう。

 

■ 事実

1:「総雇用者所得」とは

 まず、「総雇用者所得」は『1人あたりの賃金(現金給与の総額)』に『雇用者数』を掛けることで求められる指標です。要するに雇用者全体の所得額です。

 安倍首相は2014年の時点で「総雇用者所得を見ていくことが肝心」と言及していますので、主張内容が変化したということもありません。

 日本は民主主義ですから、従業員の所得をどのように配分するかは個々の民間企業が決定権を持ちます。政府が「1人あたり〇〇円以上にすべき」と口出しするのは “御門違い” と言わざるを得ませんし、企業が多くの給与を出せる経済状況を作り出した政権は評価されるべきなのです。

 ただ、所得配分は経営者が決めれるのですから、日産のゴーン前会長のように私腹を肥やすことも可能です。そのため、“落とし穴” が存在することも認識しておく必要はあります。

 

2:「実質賃金」は個々の景況感を示さない

 朝日新聞の官邸クラブ取材班『チーム官邸』が行ったツイートに含まれる問題の1つは「実質賃金」の意味を間違えていることです。

 「実質賃金」は『名目賃金』から『消費者物価指数』を割った値を100倍したものです。「実質賃金」は “賃金の購買力” を示す指標であり、朝日新聞が言う「個々の景況感」を示すものではありません。

 個々の景況感が示されるのは『名目賃金』です。これは商品ごとの物価変動が異なるため、平均的な消費者物価指数で割ることによって示される『実質賃金』は一般の感覚とはズレが生じるためです。

 例えば、電気代が上がれば、実質賃金は下がります。しかし、稲垣えみ子氏(元朝日新聞記者)のように他人の電気に “タダ乗り” する人は「実質賃金が下がった」との認識は皆無に近いはずです。その一方で、工場で働く人々は「実質賃金の低下」を痛感していることでしょう。

 このように、「実質賃金」は個々の景況感を計ることに適しているとは言えないのです。

 

3:「所得が増えてもそれ以上に物価が上がっていれば、国民の個々の生活は苦しく感じます」は『総雇用者所得』と何の関係もない

 そして、最も致命的な部分が「所得が増えてもそれ以上に物価が上がっていれば、国民の個々の生活は苦しく感じます」と主張しているところです。

 この主張内容は事実ですが、安倍首相が言及した『総雇用者所得』とは何の因果関係もありません。なぜなら、『名目賃金』と『実質賃金』の関係を説明する際に使われる主張だからです。朝日新聞は何を主張したいのでしょうか。

 朝日新聞は反原発を掲げて追加の燃料費を計上させた上、高額な買取価格を義務付けた再生可能エネ普及に邁進し、物価の上昇を煽っている側の立場なのです。国民個々に生活の苦しさを感じさせる原因を作ったことを棚に上げ、国民が「生活に苦しい」と感じるのは政府の責任だと主張したいのでしょう。

 悪質なマッチポンプだと言わざるを得ません。また、『実質賃金』を高めたいなら、その起点となる『名目賃金』を高くするために低賃金の雇用者を解雇すれば良いことです。

以前の給与 現在の給与
A氏 40万円 42万円
B氏 30万円 31万円
C氏 無職(= 0円) 20万円
平均値
(= 名目賃金)
35万円 31万円
合計値
(= 総雇用者所得)
70万円 93万円

 「失業者はカウントされない」という欠点があるのです。無職・ニート・生活保護などの絶対数は「国民個々の生活は苦しく感じる」と主張する十分な根拠になるでしょう。朝日新聞はエリートすぎるが故、本当の弱者にまで目が届いていないのではないでしょうか。

 

 ただ、官房長官の記者会見を取材する南彰記者は新聞労連の委員長として行った反論文の中で「本来は官房長官が間違いを正し、理解を求めていくべき」と主張し、新聞記者が事実を正確に認識していないことは問題ではないと開き直っているのです。

 事実と異なる情報を平気で発信し、訂正や発信した記者などを処分しないことは論外です。このような報道機関を軽減税率の対象にすることは誤った政策であり、是正する必要があると言わざるを得ないのではないでしょうか。