民主党政権の “負の遺産” である諫早湾干拓事業問題、最高裁が「開門せず」の高裁判決を差し戻したことで再混乱へ

 読売新聞によりますと、「排水門の開閉」を巡る訴訟で法廷闘争が続く諫早湾干拓事業で最高裁が「開門命令の無効化を認めた福岡高裁の判決を破棄し、審理を差し戻した」とのことです。

 司法判断が「開門せず」で統一されなかったことになりますが、野党ですら漁業者側に立っていない問題で差し戻す意味はないと言わざるを得ないでしょう。なぜなら、諫早湾干拓事業における問題を作った張本人は菅直人首相(当時)だからです。

 

 国営諫早湾干拓事業(長崎県)を巡り、国が漁業者を相手取って潮受け堤防排水門の開門を強制しないよう求めた訴訟の上告審判決が13日、最高裁第2小法廷であった。菅野博之裁判長は、開門を強制できないとして国勝訴とした2審・福岡高裁判決を破棄し、審理を同高裁に差し戻した。

 (中略)

 この日の判決は、司法判断が「開門せず」に統一されるかが焦点だったが、審理が差し戻されたため、法廷闘争はさらに長期化する見通し。

 今回の訴訟は、2010年12月にいったん確定した開門命令について、確定判決後に事情が変わったとして、国が14年1月、「無効化」を求めて起こした。

 同年12月の1審・佐賀地裁は「無効化する事情はない」として国敗訴とした。一方、昨年7月の2審判決は、漁業者が開門を求めた当時の漁業権の免許が切れ、「開門を請求する権利も失われた」と判断し、国に逆転勝訴を言い渡したため、漁業者側が上告していた。

 

民主党政権と安倍政権(≒ 自公政権)の諫早湾干拓事業に対する立場は異なる

 ニュースでは「国の対応」との表現が使用されていますが、この件については注意が必要です。なぜなら、開門推進の姿勢を採っていたのは民主党・菅直人政権であり、安倍政権ではないからです。

  • 漁業者(開門に賛成)
    • 2004年:佐賀地裁で一部勝訴、工事の仮処分が決定
    • 2005年:福岡高裁で処分取消、工事が再開
    • 2008年:佐賀地裁で「水門を調査目的で5年間の解放すること」を命じる
    • 2010年:福岡高裁も「水門を5年間解放」を命じる
  • 国 = 菅直人首相(民主党)
    • 福岡高裁が2010年に命じた「水門を5年間解放」に対し、同年12月に「上訴の見送り」を発表
    • 「水門を5年間解放」の判決が確定
    • 開門の期限は2013年12月であることも同時に確定
  • 農業者(開門に反対)
    • 2011年4月に「開門の差し止め」を求め、長崎地裁に提訴
    • 2013年11月に「水門を当面開けてはならない」という仮処分命令が出る
    • 2015年:福岡高裁でも水門開放要求は棄却
  • 国 = 安倍政権
    • 2014年1月に「開門を命じた判決に対する無効化」を求め、佐賀地裁に提訴
    • 同年12月に「国が敗訴」の1審判決。国は控訴
    • 2018年7月に福岡高裁で国が逆転勝訴。漁業者側が上告
    • 2019年9月に最高裁が福岡高裁に差戻す

 まず、諫早湾干拓事業で『開門』に法的根拠を与えたのは2010年12月に「福岡高裁への上告はしない」との決定を下した菅直人首相(当時)です。

 しかし、菅首相は自らが下した政治判断で発生した期日までに開門を行うことはしませんでした。「開門差し止めの仮処分」が出るまで約3年の時間があったにも関わらず、行動に起こさなかったことが後の混乱を招く直接的な原因になったのです。

 

「開門を命じた判決の失効」に向けて動く安倍政権、「国政案件ではない」と逃げる立憲民主党

 国(≒ 安倍政権)の現在の立場は「開門はしない」です。当時の菅首相が確定させた地裁判決を無効化するための訴訟を起こすなどの対応をしており、立場は一貫していると言えるでしょう。

 しかし、『開門』を決定した菅直人首相(当時)が最高顧問を務める立憲民主党は「逃げ」を打つ有様です。

 当時の首相がトップダウンで決定した案件であるにも関わらず、2年前には「都道府県レベルの案件」にまで格下げし、中央は「知らぬ存ぜぬ」の姿勢なのです。おそらく、諫早湾干拓事業への見解を求められてもノーコメントを貫くことでしょう。

 なぜなら、自分たち(= 当時の民主党政権)の決定にスポットライトが当たってしまうからです。「民主党とは違う」と弁解したところで、制裁金という形で現在も損害を与え続けている当事者であることに変わりありません。

 「再び混沌に陥る可能性がある諫早湾干拓事業に対して立憲民主党はどのような解決策が有効と考えているのか」を示すことが国政政党として最低限の責務と言えるでしょう。

 

漁業者側に立ってくれる味方は見当たらない状況に変わりはない

 最高裁も「開門せず」の判決で『司法の見解』が一致していれば、民主党政権の “負の遺産” が1つ解消されていたことでしょう。しかし、高裁判決を破棄して差し戻したことで問題解決が遠のく結果となりました。

 「安倍政権の方針に司法が NO を示した」のですが、これをメディアの前で語る野党の政治家はいません。なぜなら、「なぜ政権与党だった時に開門しなかったのか」との指摘を受けることが火を見るよりも明らかだからです。

 それだけで済むなら、まだマシです。現状は開門を求める漁業者側と開門差し止めを求める農業者の双方に制裁金を支払っており、この矛盾の解決に奔走していない “現在の姿勢” も厳しく非難されることになるからです。

 おそらく、立憲民主党は従来と同じように「逃げ」を打ち続けることでしょう。沖縄の名護市辺野古への普天間基地移設問題で「民主党ではない」との言い訳をしてもメディアから批判されないのですから、諫早湾干拓事業問題でも同様の方針を採ると考えられるからです。

 

 菅直人政権時に当時の民主党に所属すらしていなかった議員が批判の矢面に立たされる必要はありません。しかし、立憲民主党の現・首脳陣は菅政権で閣僚を務めた議員が多くを占めているのです。

 したがって、知らぬ存ぜぬの態度に終始することは批判の対象になるべきです。“真っ当な野党” を育成したいなら、マスコミは諫早湾干拓事業問題に対する野党の姿勢を問いただすべきと言えるのではないでしょうか。