義足トップアスリート、マルクス・レーム選手にオリンピック出場の資格はない

 義足トップアスリートのリオ五輪出場を阻んだ「悪魔の証明」とは という記事が掲載されています。

 要約すると、「義足の優位性はある」と国際陸連が証明できなったのだから、マルクス・レーム選手の出場を認めるべきという内容です。レーム選手に「義足の優位性がないこと」を証明されるのは悪魔の証明だと批判しているのですが、もし彼がリオ五輪に出場していれば大きな物議を起こしていたでしょう。

 

 レーム選手は走り幅跳びで 8m40cm の記録を出しました。これは北京五輪やロンドン五輪の優勝記録を上回るもので、大きなインパクトを残しました。

 なぜなら、走り幅跳びにおいて『助走速度』と『記録』には一定の相関関係があるからです。

 

 ブルネル大学が調査したシドニー五輪での走り幅跳びの助走速度と記録の関係を調査した表にレーム選手の数値を重ねると以下のようになります。

画像:助走スピードと走り幅跳びの記録との相関図

 レーム選手の100mの自己ベストは11.46秒。これは秒速に直すと、8.72 m/s となります。ところが、助走が秒速 9m のスピードだった健常者の選手は走り幅跳びで 8m 超の記録を残していないのです。

 グラフからもレーム選手の数値が明らかに “飛び抜けている” ことが見てとることができます。誤差の範囲で収まらない記録が残っているのですから、アンフェアな状況と判断するに十分すぎる根拠があると言えるでしょう。

 

 また、カーボン製義足の調査したレポートも存在し、以下のように結論が述べられています。

 カーボン製義足は人間の足関節よりもかなり高いエネルギーを得ていることを示している。剛性を最適調整することで義肢を利用する選手は健常者より高いポテンシャルを有することになる。助走速度が 9.50 m/s 未満であっても、9m を超えるジャンプが可能になる計算である。

 上記のようなレポートが存在するのですから、レーム選手がリオ五輪に出場するためには「踏み切りの優位性は健常者選手と比較して誤差の範囲内だった」という結論が不可欠です。

 朝日新聞で紹介された記事では「義足を使用すると助走では不利だが、踏み切りでは有利。多角的に見ると、明確に義足が有利とは言えない」と結論づけた調査結果があることを報じています。

 助走と踏み切りのどちらに重きがあるかは分からないとのコメントも紹介していますが、グラフの数値を振り切っていることからも、踏み切りの方が重要であることは明らかです。

 

 10種競技の成績を見ても、100m の記録の良い選手ほど走り幅跳びの成績も良い比例関係にあることを見てとることができます。

表1:10種競技の選手による100mと走り幅跳びの自己ベスト
選手名 100m 走幅跳
マルクス・レーム 11秒46 8m40cm
右代 啓祐 11秒14 7m45cm
ケビン・マイヤー 11秒04 7m63cm
アシュトン・イートン 10秒21 8m23cm

 100m のベストタイムが11秒台のデカスリートが走り幅跳びで8m超の記録を出していれば、義足による優位性が疑われることはないでしょう。しかし、実際には 7m50cm 前後で落ち着いているのです。

 マルクス・レーム選手が素晴らしいアスリートであることは明らかですが、1選手だけがロイター板を使える状況で走り幅跳びを競技することはアンフェアなことです。

 

 健常者のアスリートが残した記録の相関関係とは明らかに異なる数値を出す義足を使うアスリートがオリンピック出場を希望している。誤差の範囲を大きく超えている限り、出場は認められないでしょう。

 なぜなら、ドーピングと同じだからです。バイオロジカルパスポートが導入されてから、閾値をオーバーした段階で出場停止となります。「クリーンであること」を証明するのは選手側の責務であり、主催者側ではないのです。

 “踏み切りの技術” が義足によって軽く超越され、助走のスピードでのハンデなど簡単に帳消しできてしまうことが実情と言えるでしょう。走り幅跳びは “機材スポーツ” ではないのです。

 機材ドーピングが認められるのであるなら、大会そのものの価値が大きく損なわれることになるでしょう。問われているのは参加する全アスリートに公平性が担保されているのかということではないでしょうか。