アメリカ下院で北朝鮮への制裁強化法案が可決、日系企業や銀行が対応を用意する必要性が高まる

 アメリカの議会下院で「北朝鮮の核やミサイルの開発資金につながる」との理由で、北朝鮮との取引がある外国人・外国企業に制裁を科すことができる法案が可決されたと NHK が伝えています。

 これから上院で審議が行われる予定ですが、共和党が多数派を占めていますので、可決される見込みは高いと言えるでしょう。日系企業や銀行はこの法案への対応策を準備しておくことは必須と言えそうです。

 

 法案は北朝鮮の核やミサイルの開発資金につながるとして、外国人や外国企業が北朝鮮の労働者を雇用して不当に働かせたり、北朝鮮から大量に農産物や天然資源などを輸入したりした場合に、アメリカ政府が制裁を科すことができるとしています。

 (中略)

 さらに「北朝鮮を支援する中国などの外国の銀行や企業には、今後の取引先は北朝鮮かアメリカか選択を迫らなければならない。それがトランプ新政権の取り組みの重点でもある」と強調し、北朝鮮への圧力強化を目指すトランプ政権を後押しする姿勢を示しました。

 

 引用部にある「北朝鮮か、アメリカかを選択しろ」というロイス外交委員長の発言がすべてでしょう。「北朝鮮とのビジネスを続けるのであれば、アメリカでビジネスを続けることはできない」という強烈なメッセージです。

 ドル決済ができなくても問題ないのであれば、アメリカの制裁法案を無視することは可能です。しかし、国際取引で基軸通貨であるドルが使えないことは企業にとって致命的であり、甘く見ていると大きな損失になることは過去に示されています。

 

1:アメリカの制裁対象との取引で約89億ドルの罰金を科されたBNPパリバ

 アメリカの制裁法案を無視したことで多額の罰金を科されたのは BNP パリバでしょう。

 制裁対象に指定されていたスーダン籍やイラン籍の顧客と石油関連の取引でドル送金を手がけ、幹部も黙認していたことで “組織ぐるみ” と判定され、総額89億円の罰金と1年間のドル決済停止が言い渡されました。

 これに対し、フランス・オランド大統領がアメリカ・オバマ大統領に「制裁は過剰で不公正」と再三に渡って抗議したものの効果はなく、2014年7月に BNP パリバ側が罰金を支払うことで合意しました。

 オバマ政権ですら、制裁内容を骨抜きにすることを許さなかったのですから、トランプ政権でも同様のことが起きる可能性は十分にあると見ておく必要はあるでしょう。

 

2:北朝鮮籍の個人・関連団体との取引はリスク大

 アメリカ下院で可決された北朝鮮への制裁法案に大統領が署名した時点で、北朝鮮籍の人物や北朝鮮関連団体との取引を行っている金融機関や企業は大きなリスクを背負うことになります。

 「アメリカとの取引がゼロ」であるなら、制裁を無視することは可能です。しかし、貿易で “ドル決済” は欠かせないものであり、アメリカとの取引がゼロという訳にはならないはずです。

 特に、金融機関は忙しくなるでしょう。なぜなら、BNP パリバの二の舞になる訳にはいかないからです。

 アメリカ当局が「アウトかどうか」の判定を下す訳であり、北朝鮮との取引を継続した方がビジネス的なメリットが大きいのであれば、関係を続ける自由は存在します。その場合は北朝鮮以外との取引を並行して行うことは絶望的ですので、その点を踏まえた上で判断する必要があるでしょう。

 

3:アメリカからの制裁対象になる可能性が高い個人・団体は?

 制裁対象となる可能性が最も高いと考えられるのは朝鮮総連でしょう。日本国内での活動が北朝鮮の核やミサイル開発に大きく寄与しているのですから、総連関連の口座が存在する金融機関は対応が迫られることを想定しておかなければなりません。

 総連の影響が色濃く出ている朝鮮学校に補助金を出している自治体も対応そのものを見直す必要が出てくることが予想されます。これは「北朝鮮に資金を供与したことと同義」と見なされれば、自治体の金融口座がある金融機関がアメリカから制裁を受けるリスクがあるからです。

 また、“資金提供” を行っていると見なされた個人も対象になることは十分に考えられることです。制裁が本格的に稼働する前にどのような準備ができるのか。金融機関が自らの損失を回避する用意をきちんと行えているのかが求められる案件と言えそうです。