隣国フィリピンでイスラム系武装勢力との戦闘が起きていることをメディアが無視するのは野党への忖度ですか?

 6月上旬に予定されていたフィリピン・ドゥテルテ大統領の来日がキャンセルされました。

 このニュースは NHK などのメディアが伝えていますが、中止となった理由が「フィリピン南部のイスラム系武装勢力掃討作戦」であることや現状について継続的な報道が行われていないことは奇妙だと言えるでしょう。

 

 フィリピン政府は、来月上旬に予定していたドゥテルテ大統領の日本訪問について、先週、戒厳令を布告した南部ミンダナオ島で続く、イスラム系武装勢力の掃討作戦に対応するため、中止すると発表しました。

 (中略)

 ミンダナオ島では今月23日、治安部隊と過激派組織IS=イスラミックステートを支持する地元のイスラム系武装勢力との間で激しい戦闘が起き、これまでに市民19人を含む100人余りが死亡しています。この戦闘をきっかけに、ドゥテルテ大統領はISの脅威に対応するためなどとして、ミンダナオ島や周辺の島々に戒厳令を布告し、武装勢力の掃討を進めています。

 

 フィリピンが隣国というイメージを持っている人は少ないでしょうが、沖縄・八重山列島の南に位置しており、排他的経済水域のラインから隣国と言うことができます。

 そのフィリピンで厳戒令が発令され、過激派テロ組織との間で戦闘が起きていることはニュースとして報じる価値のあるものです。しかし、現在の情勢などが取り上げられることは少なく、報じることを意図的に自粛していると言わざるを得ない状況となっています。

 

タイのクーデターは報じたが、フィリピン国内での戦闘はほぼノータッチ

 距離的にも近い隣国・フィリピンで厳戒令が布告され、戦闘が起きている状況をマスコミは注視しているのでしょうか。外務省は注意喚起を発表しており、現地の最新情報を伝えることはマスコミの役割の1つであるはずです。

画像:フィリピンの安全情報(2017年6月2日現在)

 「戦闘の最前線であるミンダナオ島で取材活動をしろ」と言っている訳ではないのです。フィリピンの首都マニラから最新情報を伝えたり、現地の人々がイスラム系武装勢力にどのような印象を持っているのかなどを伝えるだけでも大きな意味があると言えるでしょう。

 日本の隣国が『テロとの戦い』の現場になっていることに意図的に触れないマスコミの姿勢は非常に奇妙なものです。

 

ミンダナオ島はフィリピンの中でもイスラム教徒の割合が高い地域

 外務省が紹介しているように、フィリピンはキリスト教国です。8割超がカトリックで、プロテスタントなどを含めるとキリスト教徒の割合は全国民の9割を超えます。

 「イスラム教は 5% ほどで、ミンダナオ島では人口の2割がイスラム教徒」と言われていますが、その多くは以下の2地方に生活しているものと推測されます。

  • フィリピンの人口(約1億人)の 5% = 500万人
  • ミンダナオ島の人口(レベル3の地域)
    • イスラム教徒ミンダナオ自治地域:約370万人
    • サンボアンガ半島地方:約360万人

 外務省が渡航禁止の危険情報を出している2つの地方の住民は700万人を超えます。イスラム教徒の自治州ではイスラム教徒が多数であり、距離が離れるほど割合が低くなることが一般的であることを考慮すると、ミンダナオ島の西部にイスラム教徒が多く生活していると言えるでしょう。

 

イスラム教徒が多い地域に過激派テロ組織が紛れ込み、騒乱を起こしている現実を伝え、対策を提示すべき

 イスラム教徒ミンダナオ自治地域はフィリピン国内でも貧しい地域ですが、そこに過激派テロ組織が入り込み、自分たちの掲げる理想郷を武力で設立させようとする動きが海外メディアの報道から見えてきます。

 “外国人の戦闘員” などはその根拠と言えるでしょう。シリアやイラクで IS がやっていることがフィリピン南部のミンダナオ島で起きているのです。

 これを伝えることがマスコミの役割であるはずです。価値観が根底から異なる相手と互いに理解し合うことは非現実的であり、話し合いでは解決できない問題があることを自覚しなければなりません。

 もし、「話し合いで解決できる」というなら、フィリピンで実証すべきです。対策を政府に求めることは世間一般がすることであり、言論機関であるメディアは具体的な対策を提示しなければならない立場なのです。

 

 テロ組織としても知られるイスラム系過激派組織が戦闘を引き起こしていることをマスコミはあまり伝えようとはしないでしょう。なぜなら、テロ対策となる “共謀罪” の成立を後押しすることになってしまうからです。

 現状ではフィリピンのイスラム系武装勢力のために資金調達をしたとしても罰せられないのです。“平和” を求めるのであれば、この点は改正しなければならないことは明らかです。

 『テロ等準備罪』に問題があるなら、アクロバティックな批判では説得力を持ちません。「廃案に追い込む」と怪気炎をあげるのであれば、フィリピンでテロ組織が起こす行為を現行法で防ぐことができる根拠を示すことが最低限の責務と言えるはずです。

 野党の政治的主張に忖度し続けているマスコミの姿勢は猛省する必要があるのではないでしょうか。