“世界2位の経済大国で温室効果ガスの排出が世界1位の国” が削減義務を負っていない『パリ協定』に意味はない

 アメリカ・トランプ大統領がパリ協定からの脱退を表明したことに対し、中国と EU が温暖化対策で協力を確認したと NHK が伝えています。

 これは茶番と言えるでしょう。なぜなら、温室効果ガスを最も排出している中国(世界全体の30%弱)はパリ協定による削減義務は負っていないのです。世界2位の経済大国であることを考慮すると、非常に無責任と言えるでしょう。

 

 EUと中国がパリ協定の目標の達成に向け協力していくことなどを確認したことを明らかにしました。

 一方、温暖化対策を進めるうえで国際的な責任があるとする中国の李首相も「世界で不確実性が増す中、安定した中国とEUの関係は有益だ」と応じました。

 当初は、双方が率先して地球温暖化対策に取り組むことなどを明記した共同声明を採択する見通しでしたが、別の問題で意見が食い違い、結局、採択は見送られました。

 

 このニュースで強調すべきは中国と EU が温室効果ガス削減を主張している点です。なぜなら、この両者は “抜け道” を利用しているため、『パリ協定』によるデメリットが少ない国家だからです。

 本気で温室効果ガス問題に取り組むのであれば、「ズルをするような真似は止めるべき」と批判する必要があるでしょう。

 

削減の対象を「1990年」に設定する欧州諸国

 『パリ協定』は加盟国の約束草案(INDC)を基に実施されます。「数値の引き下げが可能かどうか」は判断が分かれていたのですが、アメリカが脱退を表明したことで「数値引き下げは不可能」と見なされたと言えるでしょう。

 ちなみに、環境省が発表しているヨーロッパ諸国の約束草案は以下のとおりです。

EU 2030年に1990年比で少なくとも 40% 削減
スイス 2030年に1990年比で 50% 削減
ノルウェー 2030年に1990年比で少なくとも 40% 削減

 特筆すべきはヨーロッパを除く先進国が2005年比での削減数値を出しているにもかかわらず、ヨーロッパだけが1990年比になっていることです。

 1990年が比較点になっている理由は「東西冷戦による遺産を活用できるから」です。共産圏の影響が強い旧・東側諸国の工場設備は老朽化が進んでいたため、設備をリプレースするだけで大量の温室効果ガスを削減することができます。

 しかし、削減の比較対象を2005年にしてしまうと、その効果が薄れてしまうのです。本気で温室効果ガス削減に取り組んでいるなら、「2005年比で 30% の削減」とするでしょう。それをせず、“1990年比” に固執するヨーロッパ諸国が温暖化を語る資格はないのです。

 

中国は2030年まで CO2 排出量を増やすことができる

 ヨーロッパ諸国と双璧をなす欺瞞的な目標を掲げているのが中国です。現時点で全体の3割弱を排出する世界一の温室効果ガス排出国である中国の約束草案は以下のとおりです。

  • 2030年前後に CO2 の排出量をピークアウトさせる
  • 2030年までに GDP あたりの排出量を2005年比で 60〜65 % 削減

 『パリ協定』では世界2位の経済大国に対し、排出量を削減する義務は負っていないのです。これはアンフェアであり、アメリカ側が不満を述べて当然です。

 中国の GDP が2005年当時と同じであれば、CO2 の排出量を 60% 強 も削減する責任があります。ですが、GDP は伸びを見せているのです。

表:中国のGDP推移(単位:10億人民元)
名目GDP 実質GDP
2005年 18,919 28,087
2016年 74,539 74,594
2022年 120,951 105,961

 そのため、中国の削減目標はパリ協定に参加している先進国と比較すれば、それほど厳しい基準とは言えないはずです。経済活動に科される制約が限定的なのですから、世界2位の経済大国に対する不満が出てくることは当然と言えるでしょう。

 

“グリーン成長論” は机上の空論である

 環境問題に熱心なリベラル派を中心に「温暖化対策をやるほど経済は成長し、雇用がもたらされる」と主張しています。

 これは単なる詭弁であり、机上の空論です。もし、環境リベラル派の主張が正しいのであれば、COP など国際会議での交渉が揉めることはないでしょう。また、政府が資金援助を発表する必要もありません。

 なぜなら、儲けが出るビジネスであるなら、民間企業が挙って参入しているからです。現状は政府の補助金で雇用が生まれ、経済が成長しているように見えているだけです。

 これではバラマキと何ら変わりはないでしょう。効果が不鮮明な事業に税金をつぎ込むほど馬鹿げた決断は存在しないのです。しかも、FIT を通して高額な電気料金まで請求されるのですから、世間一般にとっては迷惑以外の何物でもありません。

 

 温暖化防止はキレイゴトの一面もあり、マスコミがキャンペーンを張りやすいテーマです。しかし、現実的な解決策を提示しなければ、効果が生まれないことも事実です。

 政権に対し、「真剣に取り組むべき」と述べるだけの “べき論” は意味のないことを自覚し、ズルをしている EU や中国に対して批判ができないようでは意味がないことを自覚する必要があるのではないでしょうか。