吉野復興相が「風評被害が必ず発生する」発言は「マスコミが風評被害を起こす」と述べたと同じことだ

 吉野正芳復興相がトリチウムが含まれる「多核種除去処理済水」の海洋放出に対し、風評被害が起きるから反対との姿勢を示したと福島民報が報じています。

 “風評被害” が起きるということは「事実とは異なる疑惑で悪い評判を立てられ、損害を被る」ということです。つまり、風評被害の払拭をすべき立場のマスコミが伝えるべき正確な情報を取り扱っていないということが問題と言えるでしょう。

 

 東京電力福島第一原発で高濃度汚染水を浄化した後に残る放射性トリチウム水の海洋放出について、吉野正芳復興相(衆院本県5区)は14日の閣議後の記者会見で、反対する意向を示した。「風評被害が必ず発生する。福島県の漁業者をこれ以上追い詰めないでほしい」と理由を述べた。

 吉野氏は「科学者の中には基準以下の濃度で放出をすべきだという意見もあることは承知している」とした上で、トリチウムの濃度に関わらず海洋放出はすべきではないと強調。「漁業者に新たな不安を作らないでほしい」と述べた。

 

 福島県の漁業者を追い詰めているのはマスコミです。風評が起きたとしても、強大な発信力を持つメディアが正確な情報を報じることで容易に払拭することができるでしょう。

 しかし、事実を報じたところでメディアの売り上げに貢献するかは不透明です。

 その一方で危険を煽り立てた内容の方がスキャンダル的な見出しで読者を引き付けることが可能です。それによって売上・収益がアップする訳ですから、利益を追求する私企業であるメディアは風評被害に加担する側にいる存在なのです。

 

1:マスコミが “汚染水” と雑にまとめた水の正体は健康に害を及ぼさない “多核種除去処理済水”

 マスコミは “汚染水” と雑にまとめ、マイナスのイメージを振りまいています。しかし、実際は健康に害を及ぼさない『多核種除去処理済水』なのです。

 “トリチウムが含まれた処理水” が実態であり、環境にも影響が生じない浄化水なのです。これを1基あたり数億円のタンクを建設し、溜め込み続けている現状は明らかにコストの無駄遣いと言えるでしょう。

 復興相である吉野正芳氏がすべきことは「トリチウムに対する説明」を行い、認知を高めることです。メディアやネットで再利用がしやすいプレゼン用資料の形で公開し、多くの人が “安全である根拠” に簡単にアクセスできるようになっていることが肝心です。

 「反対」だの「風評被害が心配」などというのは大臣の仕事としては不合格です。仕事をせず、文句を言うだけの野党と変わらないのですから、取り組み姿勢を改めなければなりません。

 

2:福島第一原発のトリチウムは危険なのか?

 トリチウムは「三重水素」と呼ばれ、水素と1種で地球上の至る場所に存在します。太陽からの放射線が大気中に窒素や酸素とぶつかった際に生成されるため、空気中の水蒸気・雨水・海水に含まれています。

画像:水素とトリチウムの違い

 トリチウムの半減期は約12年。トリチウムから放出される放射線は『ベータ線』に限定されており、そのエネルギーが非常に弱いことが特徴です。

 空気中では約 5mm、水中や人体組織中では 約 0.005 mm しか進むことはできないレベルです。外部からトリチウムの放射線を受けた場合は皮膚で止まりますし、吸い込んだとしても新陳代謝などで体外に放出され、人体にトリチウムが留まるということは起きません

 つまり、過度に恐れる必要が全くない物質なのです。

 

3:「トリチウムの濃度を薄めて海洋放出」は法的に認められ、実施されている

 トリチウムは自然界に存在する物質であり、濃度が高くない状態であれば、空気中または海に放出されています。太陽の光が降り注ぐことでトリチウムが生成されている環境ですから、「原発からのトリチウム」だけを問題視することはナンセンスと言えるはずです。

 ちなみに、トリチウム放出に対する基準値と目標値は以下のように定義(PDF)されています。

線量限度 数値
基準値
(年間:法令)
1mSv
目標値
(年間:指針)
0.05mSv

 法的には年間 1mSv を下回っていれば、問題ありません。ただし、電力会社はさらに厳しい目標値を定め、これを下回る基準で放出を行っているのです。

 福島第一原発から発生されるトリチウムだけを問題視し、騒ぎ立てることは明らかに筋が悪いと言えるでしょう。

 

4:浜岡原発の数値から危険度を判定すべき

 資料(PDF)を公開している浜岡原発を例に出して比較することにしましょう。震災発生前の過去5年(2006年〜2010年)で液体として放出されたトリチウムの平均値は 0.658 テラベクレル(兆 Bq)です。

 「兆(10の12乗)」と聞くと、多すぎるイメージを持つ人もいるでしょうが、これは細かすぎる単位を適用しているからです。シーベルトに換算すると、問題がないことが明らかになるからです。

 浜岡原子力発電から放出したトリチウムの年間あたりの放出量は、その量に基づいて発電所周辺に住んでいる方々が体の外部からの被ばくや、呼吸・食べ物などによる体の内部からの被ばくなどを考慮し1年間に受ける被ばく線量の合計で 0.00001 ミリシーベルト(mSv)程度と評価でき、法令により定められた年間の線量限度(1mSv)に対して、10万分の1程度の値です。また、自然放射線による年間の被ばく線量(2.4mSv)と比較した場合でも、20万分の1と非常に低い値です。

 この情報を上述した表に反映させると次のようになります。

線量限度 数値
基準値
(年間:法令)
1mSv
目標値
(年間:指針)
0.05mSv
浜岡原発
(年間:平均値)
0.00001mSv

 つまり、浜岡原発での濃度水準であればトリチウムを含んだ水を海洋放出することに何の問題もないことは明らかであるはずです。

 

 ちなみに、東京電力が2014年3月時点での推測値として公表したトリチウムの総量は 3400 テラベクレル。これを浜岡原発と同じ濃度で放出した場合のベクレル値は次のように推測できます。

  • 浜岡原発(中部電力)
    • トリチウム放出量:0.658 テラベクレル
    • 年間被ばく線量:0.00001 mSv
  • 福島第一原発(東京電力)
    • トリチウムの総量(推定値):3400 テラベクレル
    • 年間被ばく線量(仮定値):0.051 mSv

 仮に、総量を放出したとしても「目標値」とほぼ同じ値になるのです。つまり、「濃度を薄め、希釈した状態でトリチウムを放出することに何の問題もない」という結論を導くことができるのです。

 

 『トリチウム』という聞きなれない言葉で不安に感じるのであれば、『硫黄』に置き換えると良いでしょう。温泉での “硫黄臭” は硫化水素が基で濃度が濃いと問題ですが、薄められていれば問題がないことは明白です。

 もし、薄めていても問題があるなら、北関東周辺に多くの硫黄温泉を持つ利根川流域の水を飲料水などに使うことは到底できないはずです。

 『硫黄』で問題となるのは “硫化水素” が吹き出したことで局所的に濃度が高くなった場合に呼吸困難などが引き起こされることです。これは濃度が薄くなれば、問題ではないため、すべてを除去しろという話にはならないでしょう。

 自然界で同様に生成されることが分かっている『トリチウム』も同じ扱いをし、おかしな風評が振りまかれることを防ぐことがメディアに求められていることなのではないでしょうか。