韓国が「米韓 FTA (自由貿易協定)の再交渉」に合意、韓国の対米貿易黒字額が抑制される方向へ

 読売新聞によりますと、アメリカと韓国の両政府が FTA (自由貿易協定)の再交渉を始めることで合意したとのことです。

 韓国側が利益を手にしていたこともあり、韓国政府は見直しに消極的でした。しかし、トランプ政権が「破棄」を背景に判断を迫ったことで、「再交渉」という形に落ち着いたと言えるでしょう。

 

 米韓両政府は4日、ワシントンで自由貿易協定(FTA)に関する「特別合同委員会」の2回目の会合を開き、FTAの再交渉を始めることで事実上、合意した。

 韓国側はこれまで一貫して見直しに応じない姿勢を保ってきたが、FTAの「破棄」をちらつかせる米トランプ政権に対して譲歩を余儀なくされた格好だ。

 

 米韓 FTA は「韓国目線では大成功、アメリカ目線では大失敗」という結果でした。それは数字ででも現れていたことです。

 特に、アメリカ側からすれば、“騙し討ち” にあった印象を持ったことでしょう。貿易赤字は膨らむわ、韓国は為替介入を平気でするわといった形で散々だったからです。

 

1:米韓 FTA で韓国の対米貿易黒字額は倍増、アメリカの対韓貿易額は横ばい

 米韓 FTA 締結前後における両国の貿易額は下表のように推移しています。

表1:米韓 FTA 締結前後の貿易額
  韓国
(対米輸出額)
アメリカ
(対韓輸出額)
2010年 489億ドル 388億ドル
2011年 567億ドル
(貿易黒字:132億ドル)
435億ドル
貿易赤字:132億ドル
2012年 589億ドル 423億ドル
2013年 634億ドル 416億ドル
2014年 697億ドル 446億ドル
2015年 718億ドル 435億ドル
2016年 699億ドル
(貿易黒字:276億ドル)
423億ドル
貿易赤字:276億ドル

 米韓 FTA が締結されたのは2011年のこと。アメリカの対韓貿易額は435億ドルであり、FTA が締結された後も貿易額はほぼ横ばいとなっています。

 対する韓国の対米貿易額は567億ドルから699億ドルに上昇。貿易黒字額は倍増しており、まさに米韓 FTA の恩恵を最大限享受してるのです。

 この状況を放置することはアメリカ政府として到底容認できないでしょう。双方に利益をもたらすはずの FTA が片方の国だけに利益をもたらしているからです。「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ政権ではなくとも、是正に乗り出すと思われます。

 

2:韓国の対米貿易黒字は自動車産業によるもの

 韓国がアメリカとの貿易で貿易黒字を溜め込んでいる理由は自動車産業によるものです。それはアメリカ国勢調査局が発表している韓国からの輸入額をグラフ化すれば、明らかとなります。

画像:韓国の対米輸出主要製品

 自動車は80億ドル(2011年)から160億ドル(2016年)と貿易額をほぼ倍増させています。貿易額の大きい主要項目でも全体的に伸びており、これらが対米黒字を増やす要因となっているのです。

 アメリカ市場で販売する車両をアメリカ国内で生産していれば、反論にも説得力があると言えるでしょう。しかし、韓国国内の工場で生産した車両をアメリカ市場に輸出しているのですから、雇用を奪う米韓 FTA は打ち切るべきだとの声が根強く存在する結果を招くことになるのです。

 

3:韓国の財閥系企業にとっては “渡りに船” となるかもしれない

 米韓 FTA の見直しは韓国政府にとって悪夢と言えるでしょう。「再交渉」が行われることに合意しましたが、アメリカ政府は再交渉の結果に納得できなければ、「破棄」という選択肢を行使できる立場にあるからです。

 しかし、韓国の財閥系企業にとっては “渡りに船” となる可能性があります。

 『ろうそく革命』で誕生したムン・ジェイン政権は財閥を目の敵にし、企業の競争力を削ぐ政策を実行することが確実視されています。韓国国外への工場移転すら妨げる気であり、収益力の低下は避けられない状況でした。

 そこにアメリカ政府が「韓国との貿易赤字額は減らさなければならない」とプレッシャーをかけて来たのです。「アメリカ向けの製品を作っていた韓国国内の工場を閉鎖し、アメリカ国内で工場を新規建設します」と言い出せる口実ができたことを意味しています。

 企業が韓国から脱出するなら、このタイミングを活かすべきと言えるでしょう。

 

 通貨スワップ協定を持たない韓国ですが、アメリカと通貨スワップ協定を結びたいという本音も持っているはずです。しかし、FTA 締結中に為替介入を繰り返し行った “裏切り行為” が許されるとは考えづらく、韓国側が持つ「交渉のカード」は皆無に近い状態だと考えられます。

 アメリカ側が一方的な損を被っていた協定がどのような形で落ち着くのかに注目する必要があると言えるのではないでしょうか。