通貨高は輸出産業に大打撃を与え、雇用が失われることを知っておかなければならない

 オーストラリアで半世紀以上にわたって自動車の生産を行ってきたトヨタが通貨高と人件費上昇を理由に現地生産から徹底したと NHK が伝えています。

 日本では円高を歓迎する声がありますが、通貨高はその国の輸出産業に大きな影響を与えるのです。従業員が大幅に解雇される訳ですから、他人事ではないという認識を持つ必要があると言えるでしょう。

 

 トヨタ自動車は、オーストラリアの通貨高や人件費の上昇などで採算が悪化したことから、半世紀以上にわたって行ってきたオーストラリアでの車の生産を3日、終了しました。

 トヨタ自動車は、1963年からオーストラリアでの生産を始め、これまでに隣国ニュージーランドや中東などへの輸出分も含めて、345万台余りを生産してきました。

 しかし、オーストラリアの通貨高や人件費の上昇などで採算が悪化したことから、南東部メルボルンの郊外にある工場の閉鎖を決め、3日、生産を終了しました。

 (中略)

 トヨタは今後、従業員の数を現在の3分の1に当たるおよそ1300人まで削減したうえで、輸入車の販売を中心に事業を続けることにしています。

 

1:通貨高は輸出において、極めて不利になる

 通貨高が有利となるのは、「モノやサービスを国外から購入する場合」です。通貨が強ければ、多くのモノやサービスを多く手にすることが可能となるからです。

 トヨタの場合、オーストラリアで生産した車両をオーストラリア国内のみで販売できていれば、通貨高も人件費の上昇も大きな問題とはならなかったでしょう。

 なぜなら、オーストラリア国内での売買は通貨高(豪ドル)の影響を受けませんし、オーストラリア国内の人件費上昇もインフレが起きているということで想定内に抑えられるからです。

 しかし、通貨高の状態にある国から輸出することには困難が伴います。豪ドルでは「一般車の価格」であっても、為替の関係で他国の通貨水準では「高級車の価格」にまで値段が跳ね上がってしまうからです。

 これでは消費者が購入に踏み切ることは難しく、生産するほど企業は赤字を抱え込むことになります。したがって、企業本体が傾く前に「撤退」を決断する経営者が現れることとなるのです。

 

2:過度な円高は “工場を持つ優良企業” を国外への移転させる

 円高を歓迎すると述べている人は経済をあまり理解していないのでしょう。通貨高となれば、輸出競争力が落ちることになります。場合によっては赤字に陥るため、企業は「移転」を検討することになるのです。

 ここで問題となるのは「雇用」です。

 企業が国外移転を決断すれば、国内工場で働いていた従業員は解雇されます。集約化を進めたことで従業員数は数千人、数万人というレベルになっており、この規模の従業員を受け入れる企業は同国内には存在しません。

 なぜなら、通貨高の影響を受けるのはどの企業も同じだからです。通貨高でA社が国内生産の削減を決定したことに対し、同業他社のB社が通貨高による影響を受けていないという事態は起こり得ないためです。

 そして、優良な輸出企業ほど、国外移転に踏み切ることでしょう。これは優良な企業ほど国外移転をするだけの “経営体力” を持っているからです。その結果、国内には競争力に劣る企業を中心に残ることとなり、経済情勢そのものが停滞・低迷する原因になってしまうのです。

 

3:円高で海外からモノが買いやすくなるが、肝心の資金はどうやって稼ぐのか?

 円高で海外からモノを買いやすくなることは事実です。しかし、そのための購入資金をどうやって確保し続けるのかという点に対する解決策がなければ、意味のないことです。

 資産家であれば、個人の生活を賄うレベルでは「過度な円高」であっても問題にはならないでしょう。

 しかし、稼ぎ続けなければならない企業やこれから資産を構築しなければならない世代にとっては円高によるメリットは極めて限定的なのです。

 円高が進行するほど、企業が対象にできるマーケットは日本市場に限定されます。円安よりの為替であれば、その対象は世界市場全体となるのです。

 残念なことに、日本は世界中の国々が欲する資源を産出する国ではありません。また、人口も巨大ではなく、市場の規模による魅力が突出しているという訳ではないのです。そのため、通貨高にするメリットはそれほど大きくないと言えるでしょう。

 資源を持たない国は加工貿易による輸出であったり、最先端技術の開発などで外貨を獲得し続けなければなりません。その際、過度な円高を招くと、マイナス面が大きく現れ、取り返しの付かないことになるという現実を覚えておく必要があると言えるのではないでしょうか。