“マズい給食騒動” で業者が手を引いたことで、神奈川県大磯町は「安物買いの銭失い」の状況へ

 安易なコストカットが完全に裏目に出たケースと言えるでしょう。

 「マズい給食」で騒動が起きた神奈川県大磯町で、デリバリー方式で給食を提供していた業者が手を引いたことで『自校式』が検討されていると読売新聞が報じているからです。

 

 中崎町長は一連の問題について「デリバリー(配達)方式を導入した時の危機管理の欠如が今回の混乱を招いた」と改めて謝罪。「代わりの業者も、給食の再開時期も決まっていない」とし、「保護者に負担をかけるが、一刻も早く生徒たちが安心して給食を食べられる環境を整えたい」と話した。

 野島健二教育長は、大手の業者3社と交渉したが「リスクが大きい」と断られたことを明らかにした。野島教育長は「地元の業者とも話を進め、登校時にコンビニ店で弁当を購入してもらうことも検討している」と述べ、12月議会までに方向性を示す考えを強調した。

 (中略)

 中崎町長は、自校式のほかに近隣の小学校などで給食を作る「親子式」や給食センターを新設する案などを挙げた上で、「早い段階で話し合っていきたい」と話した。

 

 

1:歯車が噛み合っていない中で始まったと思われる

 三者ともにメリットがあるとの理由で、給食が採用されたのでしょう。しかし、落とし穴があったのです。

  • 保護者:給食になれば、弁当の手間から解放される
  • 大磯町:『デリバリー式』が予算的に最安
  • 業者:新規契約で売り上げアップ

 端的に述べると、大磯町の希望条件をすべて満たす業者が存在しなかったということです。

 『デリバリー式』は調理済みの弁当を配送するのですが、配送先の距離が遠くなるほど味が落ちることになります。また、予算や栄養を考慮したメニューなどの制約が多く、そもそもビジネスとして成り立っていない状況だったと考えられるからです。

 

2:「自分たちは食べない給食」という意識は大きい

 始めから噛み合っていないプロジェクトでも、関係者が着地点を見出せば、動き出します。これはプロジェクトの関係者に損害は生じないからです。

 保護者も大磯町の教育委員会も、業者が製造した “マズい給食” は口にしません。また、業者側も「依頼された内容できちんと製造している」との言い分があるため、歩み寄りや譲歩をする必要性が完全にゼロなのです。

 その結果、実際に給食を口にする大磯町の公立中学校に通う生徒が割を食う結果となったのです。

 1番責任が大きいのは近隣の市町村がデリバリー式の採用を見送っている中で、デリバリー式の導入を決めた大磯町でしょう。決定を下した根拠を開示する必要があるからです。

 

3:採算が取れないビジネスに手を出さないことが鉄則

 当たり前のことですが、収益を出す民間企業は採算の取れないビジネスに手を出すことはありません。なぜなら、経営が立ち行かなくなり、最悪の場合は倒産してしまうからです。

 規模の大きい業者ほど、損益分岐点を下回る受注は敬遠します。売上高を伸ばす目的で受注する中小規模の業者が逃げ出した後では誰も後始末をしようとはしないのです。

 『自校式』であれ、『親子式』であれ、『給食センター式』であれ、当初の見積もりより高くなることは確実です。

 大磯町が新たな出費を負担することになるのは確定的ですし、保護者も『弁当』に戻ることで負担が増えるでしょう。『給食』という形で業者にアウトソースしていた負担が自分たちに戻ってくることになるからです。

 アウトソースする際はプランだけで判断するのではなく、実際にテストを行った上で決定をすることが重要と言えるのではないでしょうか。