「日本人アスリートはドーピングとは無縁」との “神話” を崩壊させたカヌーの鈴木康大選手

 ライバル選手の飲み物に禁止薬物を混入した結果、知らずに飲んだ選手がドーピングで陽性となって資格停止処分を受けていたことが明るみに出たと NHK が報じています。

 手口そのものは「危険性がある」と認識され、知られていたものです。ただ、『性善説』が基本となっている日本のスポーツ界が受ける衝撃は大きかったでしょう。なぜなら、今後は『性悪説』を前提とし、アスリート自らが身を守る必要が生じたからです。

 

 去年9月、石川県小松市で行われたカヌー・スプリントの日本選手権で、カヤックシングルに出場した鈴木康大選手(32歳)が同じ大会に出場していた小松正治選手(25歳)の飲み物に禁止薬物を入れたということです。

 この飲み物を飲んだ小松選手は、レース後のドーピング検査で陽性反応を示し、去年10月にJADAから暫定的な資格停止処分を受けました。しかし、このあと小松選手の資格停止を知った鈴木選手が、自分が飲み物に禁止薬物を入れたことを連盟の関係者に伝えてきたということです。

 

 『ドリンク保管所』を作るなどの再発防止策を講じると日本カヌー連盟は発表しています。一定の効果は見込めますが、“他人” に管理を委託する際はリスクが生じることを念頭に置いておく必要はあるでしょう。

 

1:“他人から手渡されたドリンク” には何が入っているかは分からない

 「他人から手渡されたドリンクに細工が施されている」というケースは古くから存在しています。

 例えば、サッカーではマラドーナのケースでしょう。1990年のアメリカW杯で「睡眠薬入りの水」を相手選手に手渡し、そのことが騒動になったからです。

 また、自転車ロードレースでは沿道の観客から水を受け取ることもありますが、選手は口にすることはありません。飲むのではなく、身体を冷やすために使うことがほとんどです。これは「渡された水に禁止薬物が入っている場合がある」ためです。

 『禁止薬物』と報じられると、世間一般では入手が難しい薬物とのイメージがあるでしょう。しかし、実際は薬局などで普通に入手できる医薬品の中に『禁止薬物』の成分を含んだ医薬品が存在しているのです。

 そのため、ライバル選手を陥れることは想像よりも簡単という現実があるのです。

 

2:『性善説』を唱えるより、『性悪説』に基づく保身のノウハウを教えるべきだ

 「スポーツマンシップの尊さを教える」と連盟は方向性を示していますが、その効果は低いでしょう。

 なぜなら、『性善説』に基づく「正々堂々」という概念が無意味だったことが鈴木康大選手のケースで浮き彫りとなったからです。窃盗などの妨害行為に及んでいたのです。

 自分だけが『性善説』では「正直者だけがバカを見る」という状態に陥っていたことは明らかです。

 少なくとも、『性悪説』に基づき、アスリートが自分の身を守るために必要な行動は何かを教えておく必要があります。冤罪でライバル選手を陥れる行為をする人物が日本国内でも発生したのですから、身の守り方を知っておくことは重要と言えるはずです。

 

 “ズル” をする選手や不正に手を染める選手は存在します。「日本人だけが高潔である」というのは幻想に過ぎないと自覚しなければなりません。

 八百長などスポーツマンシップとはかけ離れた犯罪行為も日本で起きているのですから、『性善説』を理由に目を背けるべきではないのです。濡れ衣を着せられた小松正治選手へのフォローを継続して行うとともに、ドーピングへの対応策そのものを見直す必要があると言えるのではないでしょうか。