漫画も海賊版サイトの波に飲み込まれ、単行本販売が2桁減となる

 出版業界全体が不況に苦しむ中、数少ない “ドル箱” として貢献してきた漫画(単行本)が『海賊版サイト』の影響で売上高を大きく落としたと日経新聞が伝えています。

 「書籍のみの時代」は過ぎ去りました。「電子版でも楽しむことが可能となった時代」であり、電子版の普及とともに海賊版サイトの存在感が大きくなったことが問題の根幹にあると言えるでしょう。

 

 出版科学研究所は25日、2017年の出版市場が前年比7%減の1兆3701億円だったと発表した。前年割れは13年連続で市場はピークの半分に縮んだが、関係者を驚かせたのはその内訳だ。最後の砦(とりで)の漫画単行本(コミックス)販売が13%減と初めて2ケタの減少に沈んだのだ。苦境の背後には急速にはびこり始めた海賊版サイトの拡大がある。

 (中略)

 出版社にとって漫画本は文字通りドル箱。漫画雑誌の掲載作品がもとになるためコストはあまりかからず、人気作品なら発売と同時に大量の販売を見込める。ある大手出版社の場合、漫画本だけで数十億円の利益を稼ぎ、赤字の雑誌などを合わせると利益は8割以上減るという。ドル箱の失速は死活問題だ。

 

 漫画単行本は出版社にとって、「濡れ手で粟」となる数少ない分野と言えるでしょう。

 儲かる分野であれば、“模倣品” で収益を得ようとする輩が出てくることは当然です。他の業界では “模倣品” に該当する商品が、出版業界では “海賊版” に該当しているものと考えられるため、対策を講じる必要があるのです。

 

1:「海賊版サイトの取り締まり」で得られる効果は低い

 出版業界は「海賊版サイトの取り締まり」に本腰を入れていますが、その効果は限定的です。これはサイト運営者の特定など時間を要するため、その間に販売機会を逃す結果となっているからです。

 ただ、野放しにしておくメリットは皆無であり、対策が不可欠であることは言うまでもありません。

 「現状の対応策は効率が悪い」という自覚を持った上で、異なる対策を打ち出す必要があるという状況に置かれているのです。

 『漫画村』という海賊版サイトは正規の電子書籍サイトと比較して、「使い勝手が良く、カバー全体や見開き・裏表の表紙・帯も見ることができる」との指摘があるのです。

 公式の電子書籍サイト(有料サイト)が海賊版サイトに機能面で劣っているのであれば、顧客を損失して当然です。ユーザーにとって使い勝手の良い機能は真似る必要があると言えるでしょう。

 

2:海賊版サイトには広告配信業者経由での対応に比重を置くべき

 ほとんどの海賊版サイトの目的は広告収入を得ることでしょう。中には「承認欲求を得るため」という人物もいると思われますが、こちらは例外と言えるはずです。

 広告収入は広告配信業者から支払われます。

 Google の AdSense であれば、Google は誰にどれだけの額を広告収入として支払ったかを把握しています。同様に他の広告配信業者も「誰(=自社の顧客)にどれだけの広告収入を支払ったのか」を把握していると言えるでしょう。

 海賊版サイトに広告を掲示することはコンプライアンス案件となりますので、大手広告配信業者と連携し、多額の収入を手にすることのハードルを高めておく意味はあると思われます。

 

3:“d マガジン” のような「定額読み放題」への移行を進めるべき

 海賊版サイトを作ることは比較的簡単です。なぜなら、人気サイトのソースコードをコピーすれば、大方の作業は完了するからです。

 女子高生社長としてメディアで紹介された椎木里佳氏が経営する会社がリリースしたアプリの公式サイトが他社の公式サイトを丸パクリしていたことが発覚したように、コピーで作成することは難しいことではないのです。

 また、海賊版サイトの運営者や作成者であれば、オリジナルのソースコードを持っていることでしょう。彼らの場合は「新しいアドレスで同じサイト」を作るのは極めて容易であることを知っておく必要があります。したがって、サイト運営能力を高めて対抗することが現実的な選択肢となるでしょう。

  • 漫画単行本:定額制+読み放題
    → dマガジン(ドコモ)のようなサイトを運営
  • 著作権切れ(絶版):無料(広告収入)+読み放題

 サイトの形態としてはドコモが運営する『d マガジン』がモデルケースとなるでしょう。定額制で登録されている雑誌が読み放題であり、この手法を漫画単行本にも適応するというものです。

 出版各社への配分は JASRAC からノウハウを学べば良い訳ですし、どれだけ閲覧されたかのデータは確認可能なのですから、配分に対する不平・不満は最小限に抑えることができると考えられます。

 

 現状では “ジリ貧” となることが確定的となった状況で出版各社がどのように業態を変化させて市場での生き残りを図るのかに注目と言えるのではないでしょうか。