「JR北海道・日高本線の存続」を求める立憲民主党・枝野代表の経済センスは致命的
朝日新聞によりますと、立憲民主党の枝野代表が「リニアより、JR北海道など過疎地路線が重要」とのコメントを述べたとのことです。
これは完全に比較対象を間違った論法です。また、過疎地での公共交通を「鉄道のみ」と決め付けてしまっている経済センスも致命的と言えるでしょう。
(安倍政権が財政投融資で3兆円を投入する)リニア(中央新幹線)がなくても東海道新幹線はある。しかし、JR北海道の多くの鉄軌道や過疎地域の民間バス路線などは、それがないと地域が成り立たないという不可欠なインフラだ。優先順位は誰が考えてもはっきりしている。
過疎地で公共交通インフラが苦戦をするの止むを得ないでしょう。なぜなら、次のような関係にあるからです。
利便性 | 大量輸送 | |
---|---|---|
自家用車 | 優 ↓ 劣 |
劣 ↑ 優 |
バス | ||
鉄道 |
鉄道の強みは「大量輸送」です。例えば、ベッドタウンからオフィスが集約する都会部への輸送という点で鉄道を上回る輸送効率を残すことができる交通機関は存在しないと言えるでしょう。
ところが、過疎地では “鉄道の強み” である「大量輸送」を行うニーズがないのです。利便性が低いため、住民が自家用車を利用することになり、経営が成り立たなくなるという問題点があるのです。
1:JR 北海道・日高本線の散々な状況
「過疎地であっても、公共交通は必要」との意見は多くの人が賛同することでしょう。しかし、予算には限度がある訳ですから、コストがかかり過ぎる公共交通手段を代替輸送方法に変更せず、赤字を垂れ流してまで維持する意味はありません。
その代表例は JR 北海道の日高本線です。
苫小牧と様似を結ぶ日高本線は赤字が大きく、廃線に向けた動きが進んでいます。日高本線と並走する形で国道235号線があるため、バス路線が運行されているのであれば、鉄軌道を維持する必要性はないと言えるでしょう。
不採算路線である上、豪雨・台風の被害で線路が大きな損害を受けたからです。
2:日高本線の沿線自治体はJR北海道に “無理筋な要求” をしている現実
鉄道と道路の大きな違いは所有者です。災害が発生した際、道路は自治体が復旧させます。地方自治体の予算がなければ、国が面倒を見てくれることでしょう。
鉄道の場合は民間企業が保有しているため、災害時の復旧費用は企業が負担することになります。そのため、利用者の減少に悩む過疎地の路線に多額の復旧費をつぎ込むには対費用効果が見合わないという現実に直面することになるのです。
ところが、日高本線の沿線自治体は以下の要望を伝えたと日高報知新聞は伝えています。
- 日高本線の路線維持
- 走行可能区間(鵡川〜日高門別、静内〜様似)の早期運転再開
- 苫小牧〜鵡川〜日高門別で運行
- 静内までディーゼル車を運搬(費用:1両700万円)
- ディーゼル車が3両あれば、運行可能
- デュアル・モード・ビークルの導入(門別〜様似)
「JR 北海道が2100万円をかけて、ディーゼル車両を運び込み、年間10億円超の赤字路線を運行しろ」と要求しているのです。また、現在開発中の鉄路と道路を走行できるデュアル・モード・ビークルを導入しろとも訴えている状況なのです。
国道235号線が並走している環境なのですから、鉄路維持のための予算を捻出しない地方自治体の要望を民間企業である JR 北海道を受け入れる必要性は皆無と言えるでしょう。
3:「JR 東海が自前でやる予定だったリニア」と「過疎地の鉄道網」は意味が全く違う
立憲民主党の枝野代表が致命的なのは「リニア」と「過疎地の鉄道網」を比較したことでしょう。
「リニア」は国家間競争が都市間競争に比重が移りつつある中で欠かすことのできない移動手段です。元々、JR 東海が自前で建設する予定だったのを早期開業させるために国が資金を貸し付けた(=JR 東海は資金を返済しなければならない)という経緯があります。
一方、「過疎地の鉄道網」は不採算路線であり、そこに国の資金をつぎ込むことは赤字補填と同じです。つまり、同じ土俵で語ってはならないことなのです。
人の移動が少なくても、貨物が大量に輸送される路線であれば、「維持すべき」との意見が勝るでしょう。しかし、そうした主張が聞こえてこない路線で廃止の動きが進んでいるということを見落としてはなりません。
また、「リニア」で移動時間を大きく短縮すれば、“観光資源のある過疎地” に人がアクセスしやすくなります。そうなれば、「大量輸送のニーズ」が発生する訳であり、鉄道網を維持する理由も生まれやすくなるという両輪的な意味もあるのです。
「国鉄が民営化する際、『鉄路は維持される』と自民党は約束していた」と政府批判をする人が現れることでしょう。しかし、JR 北海道で廃止が検討されている路線は旧・国鉄時代の基準で『特定地交線』に指定され、廃止の対象のなる路線なのです。
この事実から目を背けた状態で政権批判を行うと、ブーメランになることを自覚しておかなければなりません。現状で立憲民主党の枝野代表が示した方向性は経済センスが致命的に欠けた内容であると言えるのではないでしょうか。