保守点検を行う作業員の確保に苦労する JR 西日本、終電を繰り上げることで作業日数を減らす働き方改革にチャレンジする
読売新聞によりますと、JR 西日本が「全在来線での夜間ダイヤを見直し、終電時間の繰上げを検討する」と発表したとのことです。
狙いは「終電後に行われる保守点検作業を行う作業員の労働環境を改善するため」とのことであり、ダイヤ変更の目的は支持されるべきものです。“夜間でしか行えない作業” もあるだけに、どれだけ具体化するかが注目点と言えるでしょう。
JR西日本は24日、近畿の全在来線での夜間ダイヤを見直し、最終電車の時間の繰り上げを検討する、と発表した。今後、接続する私鉄などと調整し、早ければ2021年春のダイヤ改正を目指す。終電後に線路などの保守点検を行う作業員の労働環境を改善し、担い手を確保することが狙い。
(中略)
JR西の近畿の在来線では毎晩、終電後から始発までの間に約1500人が線路などの保守作業に従事。しかし、夜間に業務が集中する仕事は敬遠されがちで、人手の確保が難しくなっている。こうした作業に関わるJR西グループの建設会社では2018年までの10年間で作業員が約2割減ったという。
JR西では終電の繰り上げで、一晩での作業量が増え、結果的に作業日数を減らして休日を増やすことができるとしている。繰り上げ時間は「未定」としたが、大阪駅発の終電を「0時」とした場合、年間作業日数は約1割減らせるとの試算を出した。
点検作業は日中に実施できても、保守作業は「列車が通過しない時間帯」でしか行うことができない
鉄道を安全に運行するためには点検や保守が必要不可欠です。これらを怠ると定刻どおりの運行や高速走行に支障が出るからです。
ただ、点検や保守などの作業を行うには「列車が通過していないこと」が前提です。したがって、日中は朝夕のラッシュを除いた時間帯しか作業ができないという問題があるのです。
とは言え、これは「簡単な点検や保守」の場合です。摩耗が進んだレールの置き換えなど大掛かりなものは夜間にしかできません。
終電後から始発までの時間帯に「保守作業を終わらせた上で安全点検も完了させること」が絶対条件ですから、厳しいプレッシャー下に置かれることになります。しかも、全路線が作業対象になる得る訳ですから、移動による負担も考慮しなければならないのです。
そのため、作業員を確保することは簡単ではないと言えるでしょう。
「1晩での作業量を増やす」ことと引き換えに「休日が増える」のなら、導入を検討する意味はある
終電の時間を繰り上げると、保守点検作業を行うことができる時間が増えます。そのため、1晩での作業量を増やすことが可能となります。
現場の作業員にとっては負担が増加するのですが、“全体の作業量” が増えないなら、意味のある決定です。
これは『金曜日に行っていた作業』を『月曜から木曜までの4日間』に割りあてることで『金曜日をオフする』という仕組みにすることが理論上は可能だからです。そのような形で運用されると休日の日数が増える訳ですから、悪い話ではないと言えるでしょう。
しかし、導入に対しては注意しなければならない点もあります。それは会社側が経営難や人材不足を理由に「オフにすると約束していた日に仕事を入れる」ことが考えられるためです。
作業員の確保に苦しんでいるため、流出を促進するような経営をする可能性は低いでしょう。しかし、「背に腹は変えれない」との理由で負担を強いる選択肢は残っている状況は労使交渉などで懸念を表明しておく必要があると言えるはずです。
「夜間帯に保守点検作業が行われていること」を周知する広告やポスターによる啓発を継続すべきでは
線路などの保守点検作業を行う必要があるのは JR だけではありません。私鉄も行っていますし、「地域を支える公共交通機関」と主張する自治体やマスコミも維持に必要な部分での “協力” を惜しむべきではありません。
なぜなら、無理筋な要求を突き付けるだけだと有能な人材を確保しておくことが難しくなり、沿線住民に「利便性の喪失」という形で跳ね返って来ることになるからです。
鉄道の保守点検作業は誰かが担わなければならない仕事であり、その重要性を世間一般に対して啓発し続けることが求められます。その費用は鉄道事業者だけで賄うことは容易ではないため、マスコミや沿線の自治体が協力すべきでしょう。
具体的には「保守点検作業の重要性を訴える啓発広告にのみ資金協力をする」というものです。「沿線住民に欠かせない足」と言いながら、何も負担しないのでは JR 北海道のように廃線を進めざるを得なくなるのは目に見えています。
経営的な余力を持った鉄道事業者が「コスト削減によって立て直しが困難な状況」に陥る前に、公共インフラとして維持できるようにサポートすべき部分はしておくべきと言えるのではないでしょうか。