除雪業者に待機費を支払う制度の導入を検討する宮城県加美町の姿勢は全国に広がるべき

 河北新報によりますと、今冬の記録的な少雪の影響を受けた宮城県加美町が除雪車が出場しない場合の待機料を業務委託先に支払う制度の導入を検討し始めたとのことです。

 除雪業者は降雪量に関係なく除雪車と作業員を確保する必要があります。気象条件次第で無報酬になるリスクがあるなら、事業を請け負うことを避けるようになるでしょう。

 その結果、「除雪が必要となる豪雪時に業者がいない」という悲惨な状況が発生するため、『待機料』の導入を検討する加美町の姿勢は全国に広がるべきと言えるでしょう。

 

 記録的な少雪を受け、宮城県加美町は道路除雪の業務委託で、除雪車が出動しない場合に「待機料」を支払う制度の導入に向けて検討を始めた。3日の定例記者会見で明らかにした。

 (中略)

 出動は、未明に10センチ以上の積雪の有無などで判断する。業者側は出動にかかわらず、除雪車や人員を確保する必要がある。

 町建設課は「これまでも補償を求める声はあったが、これほど雪が少ない年はなかった。降雪量に左右されない除雪体制を築きたい」と説明する。

 

記録的な少雪は『弊害』も大きい

 豪雪地帯では冬季に「屋根の雪下ろし」などがあるため、降雪はあまり歓迎されるものではありません。そのため、積雪量が少ないことを歓迎する人は多くいることでしょう。

 ただ、少雪となると影響を被る人も存在します。代表例は「スキー場の経営」ですが、除雪業者も少雪の影響を受ける存在です。

 なぜなら、除雪業者は「降雪がある」という前提で除雪車や作業員を確保することが受注要件となっているからです。

 報酬体系は作業時間に基づく出来高制が基本になっているはずですが、『待機料』が支払われなければ、少雪になるほど除雪業者の赤字額が拡大します。この損失額を冬季以外でカバーすることは現実的ではないため、除雪作業を請け負うことから撤退する事業者も出てくるでしょう。

 そうなると、除雪が必要となった時に除雪作業を担う事業者が見当たらないという本末転倒な事態に直面することになってしまいます。それを防ぐためにも『待機料』を支払うことは自治体の責務と言えるでしょう。

 

テニスの年間王者を決める『ファイナルズ』では「出場するかが不透明な補欠選手」に1000万円超の賞金が支払われている

 『待機料』を支払うことに首を傾げる人もいるかもしれませんが、スポーツの世界では珍しいことではありません。例えば、男子テニスの年間王者を決める『ATP ファイナルズ』です。

 この大会は「年間の上位8選手」に出場資格があり、出場する選手は出場するだけで21万5000ドル(約2350万円)の賞金が保証されています。(試合に勝利した場合は勝利給を得られる)

 ただ、出場選手が負傷棄権などをする場合があり、試合ができないリスクを主催者は抱えています。これを防ぐために「2名の補欠選手」が選ばれており、彼らは11万6000ドル(約1270万円)の賞金が出場機会の有無に関係なく保証されているのです。

 言い換えれば、『ATP ファイナル』の主催者は2名の補欠選手に『待機料(2019年大会の場合は11万6000ドル)』を支払うことで “万が一の事態” の事態に備えているのです。

 除雪についても自治体は同様の報酬体系を導入すべきでしょう。機材の確保費用は降雪量に関係なく一定ですし、人件費と燃料費という作業時間によって変動する部分を『出来高制』で報酬額が算出される形が望ましいと言えるでしょう。

 

「除雪費用をケチった自治体が自衛隊に『除雪の災害派遣』を要望すること」は厳しく監視しなければならない

 ただ、宮城県加美町のように待機料を支払う制度を導入する自治体がどれだけ現れるかは不透明です。なぜなら、「少雪になる方が稀」と決め付けた方が自治体の支出に無駄がなくなるからです。

 除雪費用を『完全出来高制』にしたとしても、一部の除雪事業者は応札するはずです。

 「降雪量は多くない(はず)」との前提で報酬体系を構築し、豪雪に見舞われた場合は自衛隊に『除雪の災害派遣』を要請するという運用も理論上は可能なのです。

 こうした姑息なやり方に出る自治体が現れる可能性があることは事実です。自衛隊に除雪作業を押し付けることは明らかに “タダ乗り” ですから、そうした不届きな行動を起こす自治体が出ないように世間が監視を続ける必要があるはずです。

 「機材や人員を確保した状態での待機」を求めた自治体側が『待機料』を支払う形になるべきと言えるのではないでしょうか。