交通事故をめぐる賠償訴訟で物議を醸しそうな判決が山口地裁で出される

 読売新聞によりますと、山口市黒川で発生した死亡事故で「誤認しやすい信号機を設置したことは瑕疵にあたる」との判決が山口地裁で下されたとのことです。

 問題なのは「事故で死亡した側の責任がほとんど免責されていること」でしょう。「遺族の無念さに寄り添う」という思惑が悪い形で示されている傾向が地裁レベルで起きていることは気になる部分です。

 

 2012年12月、山口市の市道交差点で乗用車と衝突して死亡した原付きバイクの男性(当時23歳)の遺族が「誤認しやすい信号機があり、設置に瑕疵があった」などとして、信号機を設置した県や乗用車の運転手らを相手取り約1億2000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が28日、山口地裁であった。

 福井美枝裁判長は「信号機は通常の安全性を欠いていた」などとして県と運転手に計約1900万円を支払うよう命じた。

 (中略)

 運転手についても、「徐行の義務があった」と責任を指摘。一方、原付きバイクの男性も、安全を確認すべき義務があったとして、5割を過失相殺した。

 

 山口地裁が下した判決は「乗用車の運転手が “とばっちり” を受けた内容」と言えるでしょう。なぜなら、当たり屋が喜ぶような判例となっているからです。

 

1:事故現場の状況

 山口市黒川で発生した死亡事故現場の見取り図は以下のとおりです。

画像:交通事故が発生した時の状況

 乗用車を運転手から見て、進行方向順に『押しボタン式横断歩道』と『交差点』がある道路で事故が発生しました。この事故で乗用車の運転手が責任を負わされるのはかなり酷なことです。

 まず、優先権は乗用車が走行していた道路にあります。また、「『押しボタン式横断歩道』と『(事故が起きた)交差点』の距離が近すぎて誤解を招きやすいこと」はドライバーの責任ではありません。

 しかし、乗用車の運転手も賠償を命じられるのですから、割に合わないと言えるでしょう。

 

2:「側道から飛び出しても、賠償を勝ち取れる」という判決

 「当たり屋が喜ぶような判決」と評した理由は「側道から飛び出しても、賠償金を手にすることができる」との判決を山口地裁が下したからです。

  • 乗用車のドライバー
    • 優先権のある道路を走行
    • 『押しボタン式横断歩道』を青で通過し、交差点に侵入
    • 自動車運転過失致死罪で起訴されるも無罪
    • 民事で「徐行の義務を怠った」として賠償を命じられる
  • 原付バイクを運転していた男性(事故で死亡)
    • 優先権のない道路を走行
    • 民事で「安全を確認する義務を怠った」として5割の過失相殺

 乗用車のドライバーが交差点で徐行していれば、死亡事故は起きなかったでしょう。(死亡した原付バイクの男性が重傷を負う)人身事故で済んだ可能性があるからです。

 ですが、優先権を持たない側道から交差点に差し掛かる際は「一時停止をする」との安全確認義務があるはずです。これを無視して事故を起こしても、5割の過失相殺(=50% の賠償金は得られる)という判決は “当たり屋” や “安全を過信するドライバー” だけが得をする仕組みと言えるでしょう。

 

3:福井地裁で2015年に出された「もらい事故でのトンデモ判決」以来の出来事

 交通事故についての損害賠償訴訟では “トンデモ判決” が出されるケースがあります。大きなインパクトを与えたのが2015年に福井地裁の原島麻由裁判官が下した判決でしょう。

  • 居眠り運転をした車両がセンターラインをはみ出し、衝突事故が発生
  • 衝突された側(=もらい事故に遭遇した側)の運転手に「過失がなかったとは言えない」との理由で4000万円の損害賠償が命じられる
    1. 運転手は事故直前にわき見をしていた
      → どのぐらいかは不明
    2. 先行する2台は対向車との衝突は回避できた
      → 2台目の先行車との位置関係は不明
    3. 2台目の先行車との車間距離は 64m 以上離れていた可能性がある
    4. 時速50キロでの停止距離は約 24.4m であり、衝突回避行動を採ることは可能
      → 対向車の存在は?

 「前の2台が回避できたのだから、3台目も回避できていないとおかしい」というメチャクチャな判決が出ているのです。

 先行車両の存在は運転時のブラインド(=死角)になります。福井地裁が可能性を指摘した車間距離でも、回避行動ができる時間は3秒足らずです。「えっ?逆走車?」と状況を認識し、右足をアクセルからブレーキペダルの上に動かした前後で “時間切れ” になることが予想されます。

 ですが、地裁の判決は「もらい事故に遭遇した側に過失がなかったとは言えないから、賠償金を支払え」というものなのです。

 事故を起こした側が保険適用外で賠償が得られないことを救済するための “トンデモ判決” であり、被害者の定義がおかしいための事案と言えるでしょう。

 

 『交通事故で死亡(または負傷)した被害者』であることを全面に押し出せば、事故を起こす直接的な原因を作っていたとしても、賠償の大部分を受け取ることができてしまう現行の制度には問題があります。

 『被害者カード』を悪用する形で提起された賠償訴訟には厳しい批判を向ける必要があるはずです。山口の事故では最低7割の過失相殺、福井の事故では無過失と認定されるべき事案と言えるのではないでしょうか。