電気代値下げ競争:関西電力の攻勢で大阪ガスが追い詰められる
関西電力が「7月から電気代を値下げする」と発表したことを受け、大阪ガスも値下げを実施すると発表したと日経新聞が報じています。
ただ、日経新聞が指摘するように「大阪ガスが苦境に立たされている」ことは否定できません。攻めに転じた関電の勢いを止める即効性のある対策が全く見当たらないだけに、自由化による損害は今後さらに大きくなる可能性があります。
大阪ガスは5日、7月1日から電気料金を引き下げると発表した。関西電力が7月から値下げすることに対抗、使用量が多いほど割安になる料金体系にした。ただ競争が最も激しい使用量が標準的な家庭(月260キロワット時)の値下げ率は1.9%にとどまり、関電よりやや見劣りする。足元では関電に押され気味で、守りの姿勢が目立っている。
『電気小売自由化』が実施された波に乗り、大阪ガスは顧客を獲得に成功しました。しかし、翌年には『ガス小売自由化』が行われ、関西電力が大阪ガスの顧客を奪還する形になったのです。
マスコミは「電気代値下げ競争が起きることは歓迎」との見解を出していましたが、競争をすれば、より大きな規模を持つ関西電力に軍配が上がることは分かり切っていたことです。それが現実になりつつあると言えるでしょう。
大阪ガスの先行優位性は消え、守勢に回ることを余儀なくされる
大阪ガスは2016年4月に電力小売自由化を受け、関西電力の顧客を奪うことに成功しました。毎日新聞によりますと、2018年3月時点で以下の顧客数を新たに獲得したとのことです。
- 大阪ガス:約60万件(電力小売で関電から奪う)
- 関西電力:約42万件(ガス小売で大ガスから奪う)
ただ、電力小売自由化は都市ガス小売自由化の1年前に始まっており、大阪ガスはその分のアドバンテージで獲得顧客数が多いに過ぎません。なぜなら、都市ガス小売自由化が始まって以降、大阪ガスと関西電力は互いにほぼ同数の顧客を相手から引き抜いていたからです。
ところが、関西電力は2018年2月に電気とガスのセット料金が割安になる『なっトクパック』を発表。攻めの姿勢を強め、大阪ガスに対する攻勢を強めたのです。
大阪ガスにとって、『なっトクパック』は悪夢そのもの
関西電力が投入した新プラン『なっトクパック』は大阪ガスや新電力をなぎ払える威力を持っていると言えるでしょう。なぜなら、以下のような理由があるからです。
- 年間料金(電気は月260kW時、ガスは月31立法メートル):
- 電気は関電、ガスは大阪ガス:14万5812円
- 両方とも関西電力:13万5516円
- 両方とも大阪ガス:14万724円
- 都市ガス供給地域は関電も管轄内
→ 『なっトクパック』で大阪ガスが顧客を喪失 - 都市ガス供給外地域(=郊外や田舎)なら可能性はあるが、人口減少で市場規模が縮小中
- 関電は「高浜原発再稼働」という “値下げの切り札” を保持
まず、大阪ガスには関電の『なっトクパック』を上回るお得なプランがないのです。しかも、大阪ガスの本業である都市ガス供給地域は関西電力の管轄内なのです。この条件で競争を行うと、劣勢になることは当然と言えるでしょう。
このままでは大阪ガスが赤字を計上しても不思議ではない状況です。
関西電力が「電気」と「都市ガス」を支配することも可能である
関西電力は「高浜原発3号機の再稼働」という値下げ要素を持っています。2020年の再稼働を目標としており、関電は経営状況を悪化させることなく電気代の値下げをすることが可能です。
その一方で、大阪ガスには “切り札” となる要素はありません。
おそらく、『なっトクパック』を展開する関電が「電気」と「ガス」の両方で存在感を高まることでしょう。そして、その勢いは止まるどころか、強まることが予想されているのです。
つまり、「電気」でトップシェアを持つ関西電力が「都市ガス」でもトップに立つ可能性があるのです。『自由化』に舵を切った以上、関電が大阪ガスを都市ガス市場で駆逐しても文句を言う資格は誰にもありません。なぜなら、「市場競争で敗けた大阪ガスの責任」と切り捨てられるからです。
調達コストで関電を上回る強みを持たない大阪ガスの苦境はこれからが本番なのです。
「ガスの調達コスト」は購入量次第ですから、既存の大手電力会社を上回ることは困難でしょう。そのため、「電力の調達コスト」を下げなければ、関西電力と勝負にならないのです。
とは言え、原発を保有する関西電力と調達コストで真っ向勝負をしても勝ち目はゼロです。「日本原電と組み、敦賀原発3・4号機を使ってコスト削減をする」という『ウルトラC』を繰り出さない限り、起死回生策は見当たらないと言えるのではないでしょうか。