電力自由化で好スタートの大阪ガス、ガス小売自由化で関電の反撃を受けた上に公取委の立ち入り調査まで受ける
2016年に始まった電力自由化の恩恵を最も享受したガス会社ですが、1年後に始まったガス小売自由化で苦境に立たされていることが明らかとなりました。
NHK によりますと、関西電力が「ガス小売自由化の初年度の目標」としていた20万件の契約をスタートから4ヶ月あまりで達成したとのことです。ガス会社の “この世の春” は早くも終わりを迎えていると言えるでしょう。
関西電力は、ことし4月に参入した家庭向けの都市ガスの小売り事業で、初年度の目標としていた20万件以上の契約を達成しました。
(中略)
関西電力は、初年度の目標として、20万件以上の契約を掲げていましたが、2日付けで、契約の申し込みが20万件を超えたと発表しました。
この20万件ですが、大阪ガスが電力自由化の初年度で目標としていた契約件数です。「取られた分を取り返した」と言えますが、ペースが全く違うことに留意する必要があります。
- 大阪ガス:21万件達成(電力小売開始から7ヶ月)
- 関西電力:20万件達成(ガス小売開始から4ヶ月)
経営陣が危機感を覚えるペースで関西電力が大阪ガスのシェアを奪っていると言うことができるでしょう。
1:不当販売の疑いでさらに逆風が強まる大阪ガス
顧客流出に歯止めをかけたい大阪ガスですが、不当販売の疑いで公正取引委員会から立ち入り調査を受けていると NHK が伝えています。
関係者によりますと、大阪ガスはガス機器の修理や点検などを委託している近畿地方のおよそ150の業者に、ガスコンロや浴室乾燥機などの自社の商品を不当に購入させていたとして、取引上の優位な立場を使って不当な要求をすることを禁じた独占禁止法違反の疑いがあるということです。
ガスの小売はガス会社の独占でしたので委託を受けていた業者は「泣き寝入りをせざる得ない状況があった」と言えるでしょう。しかし、自由化によって関西電力が参入したことで大阪ガスの一方的な要求に対し、(ある程度は)拒否しやすくなったのです。
これは中小・零細事業者が自由化によって得られた恩恵の1つと言えるでしょう。逆に大阪ガスにとってはコンプライアンスに抵触する事案が発覚するきっかけとなるだけに経営環境は厳しくなると思われます。
2:ガス会社が本業のシェア 10% を失うことは時間の問題
日経新聞には大阪ガスの電力事業の中期目標として、本荘社長が次のように抱負を述べています。ただ、本業のシェアが関西電力に奪われつつある中では「本業のテコ入れ策」を模索する必要があると言えるでしょう。
電力小売りの参入費用がかさみ、電力事業の経常利益は前年同期比4割減の60億円。今後は年度目標を設定せず、「20年前後に(ガスの供給件数の1割に相当する)70万件の中期目標へ一歩一歩進むだけ」と話した。
大阪ガスは約700万件の契約件数を2017年3月時点で持っていたと推測されますが、関西電力に20万件は奪われています。関電以外の新規事業者にもシェアを取られることになる訳ですから、バラ色の将来とは行かないと思われます。
3:価格競争をするほど、規模の大きい電力会社が優位となる
マスコミは「価格競争が激化している」と記事に書いていますが、結末は見えています。同じ土俵で勝負するなら、規模の大きい電力会社に軍配が上がり、ガス会社の経営は行き詰まります。
理由は単純で、火力発電所を持つ電力会社の方が燃料となるガスを大量購入することでコストが安くなるからです。
“まとめ買い” で調達コストを下げることができる電力会社と真っ向勝負で勝てる事業者はいません。政治的な理由でハンデを背負わなければ、ガス会社ですら本業で太刀打ちできないでしょう。
「電力マン」が多く在籍している電力会社では利益最優先のスタンスが採られることはありません。しかし、“電力会社イジメ” でそうした志の高い社員が去り、ビジネス志向の強い上層部が経営するようになると料金値上げを躊躇することなく踏み切ることでしょう。
そうしたトップが誕生した際、真っ先に狙われるのは競合ライバル社です。電力会社が本気になっていない現状でガス会社は体制を立て直しておく必要があると言えるのではないでしょうか。